「気にしないで、如月さん」
詩織が未緒に声をかけた。
「大丈夫だよん。まだいけるって」
夕子も未緒を勇気づける。
「でも……私のせいで……もし失格になったら……」
未緒は顔面蒼白になっている。
「如月さん。
以前にね、同じように『自分のせいで……』って一人で責任を被ろうとした女の子がいたの……」
詩織が未緒に向かって言った。
「高校生クイズって言うのは、『3人が力を合わせて』勝ち抜くものなのよ。あ、今は9人で勝つんだけどね……
私が答えようと、如月さんがが答えようと……
そう、誰が答えても、それはみんなが答えたってことなの。
だから、如月さんが間違えても、それはみんなの間違いなの。
正解する喜びは誰が答えても味わえる、間違った苦しみはみんなで分ける。
それが高校生クイズなの」
「藤崎さん……」
未緒が顔を上げた。
隣で夕子と公がニヤニヤ笑っている。
「さすがシオリンさん。いいこと言いますね」
感心する間宮に夕子が横で言った。
「誰かさんの受け売りなんだけどね……」
「え?」
それは夕子が言うとおり、学内クイズで一人相撲をとりそうになった詩織に向かって公が言った言葉だった。
「如月さん、頑張りましょう! 僕も頑張るから!」
佐藤が隣で未緒に言った。
「ありがとうございます。佐藤さんって……やさしいんですね」
「え? い、いや……そ、そんなこと……」
佐藤の顔が真っ赤になっていった。
(あ、佐藤の奴……旨くやりやがって……)
間宮と田代が羨ましそうに見ていた。
「さぁ、挽回よ!」
詩織の声に全員が頷いた。
きらめき高校が一回休みの間に、次の全体クイズを正解したのは、米子東・那覇西・新潟明訓のグループだった。
「では、問題。通算で5年・200回続いたアニメ・美少女戦士セーラームーンのシリーズ。
5年間で、セーラー戦士もずいぶん増えましたが、『セーラー○○○』という名のセーラー戦士は全部で十四人登場しました。
その名前を答えなさい。ただし、敵キャラは除きますよ」
この問題に、三チームの生徒は次々と答えていった。
「セーラーマーキュリー」
「セーラーネプチューン」
「セーラーマーズ」
「セーラーちびムーン」
「セーラージュピター」
「セーラーウラヌス」
「セーラーヴィーナス」
「セーラーちびちびムーン」
八人が次々と正解していった。
そして、最後の一人、米子東高校のキャプテンが高々と人差し指を突き上げて叫んだ。
「セーラームーン!!!!」
ピンポンピンポン!
「正解、三チームは勝ち抜けです!
ちなみに全員の名前を並べると……セーラームーン、これにはスーパーセーラームーンやエターナルセーラームーンも含まれます。
それと、セーラーマーキュリー、セーラーヴィーナス、セーラーマーズ、セーラージュピター、セーラーサターン、セーラーウラヌス、セーラーネプチューン、セーラープルート、セーラーちびムーン、セーラーちびちびムーン、セーラースターファイター、セーラースターメーカー、セーラースターヒーラー。
以上十四人でした」
三グループ、九チームが勝ち抜けた。残る席は一グループ三チームのみとなった。
「さて……残る席は、後一つ……通過するのはどのグループなのか……」
司会者が言葉を切った。
「問題、大相撲、英語で横綱はグランドチャンピオン、大関はチャンピオンと言いますが、では行司は……」
ピンポーン!
公と未緒がボタンを押した。
ランプがついたのは……
「石川・星稜高校!」
「スターター!」
ピンポンピンポン……
正解したのは隣のテーブルの星稜高校のグループ、茨城・土浦第一と山形南が同じテーブルについている。
「では通過クイズです……」
司会者が問題を読み上げる。
会場が静まり返った。他のチームはすべて間違えることを祈っている。
(お願い……)
未緒が、沙希が、夕子が……
(間違えろ……)
好雄が、公が、佐藤が、田代が……
(もう一回チャンスを……)
詩織が、間宮が……会場中の高校生が祈った。
「問題、アメリカ独立当時の州は全部で十三州。それは何州?」
問題が読み上げられた。
(難しいわ……これなら……)
詩織は安心感にとらわれた。
「デラウェア」
「ペンシルバニア」
「ニューヨーク」
しかし、詩織の意に反して、次々と正解していく。
「凄い……」
公が呟いた。
「主人さん……独立当時の州ですから……地図さえ思い浮かべられれば、東側の州を言えばいいんですよ……」
未緒がポツリと言った。
「まずいな……」
間宮も同意見だった。
「ニュージャージー」
「ジョージア」
「メリーランド」
「サウスカロライナ」
「ノースカロライナ」
八人目まで無事正解した。後一人……
「さぁ、最後の一人、無事正解できるか?」
司会者が最後の一人に促した。
「……フロリダ……」
ブ、ブー……
ブザーが鳴った。
「残念、正解は、デラウェア・ペンシルバニア・ニュージャージー・ジョージア・コネチカット・
マサチューセッツ・メリーランド・サウスカロライナ・ニューハンプシャー・バージニア・ニューヨーク・
ノースカロライナ・ロードアイランド。以上十三州でした」
「ふぃ〜……」
好雄が大きく息をついた。
「まだ大丈夫よね」
沙希が言った。
「大丈夫! まだ行けます!」
田代が叫んだ。
「集中しよう!」
詩織の言葉に、全員が再度頷いた。
「問題、合わせ酢の一種・三杯酢には、文字通り三種類の調味料が合わせられていますが、では……」
司会者がニヤリと笑いながら問題を読み始めた。
(これは……虹野さんならいける……)
詩織はそう考えた。
沙希も当然自分が答える問題だというのはわかっていた。
(なにかしら……三つの内から一つを答えさせようとしているのよね。
醤油は色から直ぐにわかるし……酢なんだから、酢が入っているの当たり前だし……
となると……答えはアレよね)
沙希は得意の料理に関する問題だけに正確に問題を分析していった。
(あとは……何かあるかしら? そうね、二杯酢に何を加えた物?
となるかも……あ、でもこれでも答えは一緒ね。よし!)
沙希がボタンを押そうとしたその時だった。
ピンポーン!
テーブルの中央のランプに灯りがついた。誰かがボタンを押したのだ。
「北斗農業!」
司会者が田代を指差した。
「酢!」
田代がマイクに向かって叫んだ。
(あ!)
(違う!)
沙希と詩織が顔色を変えた。
(まずい……)
間宮と公がそう思ったとき、
ピンポンピンポン……
正解のチャイムが鳴り響いた。
「え?? それでいいの?」
沙希がキョトンとしている。
「これって……どう考えても砂糖を答えさせる問題じゃない?」
詩織も唖然としている。
その時司会者が問題の続きを読んだ。
「では、その三種類の調味料の内で最も酸っぱいのはどれでしょう? と言う問題でした。
答は酢になります」
「よかった……」
田代がホッとして息をついた。
「田代……今の問題……」
佐藤が隣から尋ねた。
「常識的にいけば、砂糖が答になる展開だったんだけど……」
「あぁ、俺もそう思ったんだ。虹野さんもそう思ってボタンに指をかけてたでしょ?」
田代が沙希に尋ねた。
「うん。そう思ってた……」
沙希がそう答える。
「その時、司会者が『しめた……』って表情をしていたんだ。だから……」
「どういうこと?」
詩織が横から会話に入ってきた。
「このルールだから……番組としては絶対に失格チームを一つくらい出したいでしょ?
演出的にも……」
詩織は無言で頷いた。
確かに、失格有りのルールで失格チームが出ないと番組的には面白くない。
「だから、絶対に引っかけだと思ったんだ。司会者の表情で……
ほら、間宮も言ってたじゃないか、
『問題は基本的に、答えて貰うように作ってある。
でも、中に数問、演出のために間違えさせる問題が混ざっている』
って」
「あぁ……そういえば……そんなこと言ったっけ」
間宮が頷いた。
「それを思い出したんだ。だから、これは間違えさせる問題だって直感したんだ。
このままだと虹野さんが誤答すると思ったんで、慌てて虹野さんより早く押したということ」
「そうだったの……ありがとう、田代君!」
沙希は完全に田代を見直していた。
(やったぁ……虹野さんにいいところを見せられた!)
沙希の言葉に田代も嬉しそうな表情だ。そして、
「だから、……砂糖が答じゃ無い以上、あとの二つの内の一つ。後は山勘で……」
田代の最後の言葉に全員が口をあんぐりと開けていた。
(田代君って……勝負師……)
夕子はそう思っていた。
(うまくやりやがって……)
そう思ってちらりと未緒を見たのは佐藤だった。
「さて、最後の一席をとることができるか? 通過問題です」
司会者が歩み寄ってきて問題文を読み上げた。
「問題、これまでの夏季オリンピックの開催地は全部で二十、その都市名を答えて下さい」
司会者がまず田代を指差す。
(難しいのからの方がいいんだよな……)
田代はそう考えていきなりマイナーなところから答え始めた。
「アントワープ」
「正解です。次」
「ヘルシンキ」
佐藤が正解した。次は未緒にカメラが向く。
「ベルリン」
「正解です。次」
続いては好雄。
「アトランタ」
さらに夕子、間宮と続く。
「ロスアンジェルス」
「ミュンヘン」
ここまでは順調に来ている。
詩織にカメラが向いた。
「セントルイス」
「アテネ」
公も正解した。
いよいよ最後の一人、沙希が正解すれば通過だ。
「最後です……」
司会者が沙希を促した。
「東京!!!!!!!!!!!」
ピンポンピンポン!!!!
「通過!!! 決定!!!!!」
司会者が叫んだ。
「よっしゃぁ!!」
「やったぁぁぁぁぁ!!!」
九人が飛び上がって喜んだ。
苦労して苦労して……最後に通過を決めた。
(これでいい……苦労して勝っていった方が……)
サブコントロール室で赤井が席を立った。
「あれ、赤井さん。もうお帰りですか?」
学生時代の後輩であるスタッフが声をかける。
「あぁ、これ以上ここに座っていて、他のチームから妙な勘繰りされるのは嫌だからな。
それと……」
「なんです?」
意味ありげな赤井にスタッフが尋ねた。
「決勝は学校から中継が入るんだろ? 準備しとかないとな」
「なるほど……自信あるんですね。ま、赤井さんの弟子ですからね。
入り中(いりちゅう)楽しみにしてますよ」
スタッフが頷いた。入り中とは中継が入ると言う意味の業界用語だ。
そして、
「どうです、今年のレベルは?」
と尋ねた。
「高いな、今年は。
大学生に入っても通用するレベルの学校がいくつか在る。
その中で優勝候補と言えば……東大寺、ラ・サール、それとうちの藤崎のチームだろう。
それとダークホースが北斗農業ってところかな?」
「そうでしょうね」
「ただ……」
赤井がテーブルの上にあった翌日以降のクイズの進行表を指差して言った。
「このルールだと……次はともかく……その次は苦労するだろうな……特にマークの厳しい強豪ほど……」
そう言って赤井は部屋を出ていった。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
---|---|
タイトル | 栄光への道 第3部 全国大会編 |
サブタイトル | 07:「勝負!」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子 |
感想投稿数 | 42 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 19時23分27秒 |
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- [★★★★★★] 高校生クイズの雰囲気出てて良い感じです!
- [★★★★★★] 北斗農業は要らないです。続きが早く読みたい
- [★★★☆☆☆] 問題はきらめき以外の高校。こんな名門校ぞろいになることは絶対に無いと思う。もう少し伏兵を出すのも良かったかな。
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- [★★★★★★] ジュピターの変身が見たい
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