夕子たちは、会場の中に入って行った。


「シオリンたちはどこかな……」
と会場を見渡したとき、スタッフが夕子たちに
「座席を抽選で決めています。この籤を引いて下さい」
と告げた。
「籤? あぁ……席決めね」
夕子は籤を引いた。
「んっと……8番……8番……8番……」
夕子は会場を見回した。
どの席にも3チーム9人が座っている。
「えっと……」
「あ、あそこですね」
未緒が指さした席には8番の札が上がっていた。
「あ、あそこ……なんだシオリンたちと一緒じゃん!」
夕子はそう言いながら席に向かった。

「ひなちゃん!」
沙希が入ってきた夕子たちに気付いた。
「あ、本当だ。朝日奈さんたちだ。通過できたんだね」
公がそう言ったとき、夕子たちがこっちの席に向かってきた。
「あ、ここみたいね。ひなちゃんたちの席」
詩織がまだ自分たちしか座っていないテーブルの開いた6つの席を見て言った。


「やっほ、シーオリン!」
夕子がやってきて詩織のとなりに座った。
「ひなちゃん、通過できたんだね」
「もちよ! 朝日奈夕子様は不死身なんよ」
「そうそう……なんたって補欠合格で全国大会に来たくらいだもんな」
好雄が笑って言った。
「ご心配をおかけしました」
未緒も座りながら言った。
「ひなちゃんの時で何チーム目?」
詩織が夕子に尋ねた。
「んっと……あたしたちが35チーム目。後1チームだよ」
「あ、ってことは最後のチームもこの席に来るんだ」
公が開いた席を見て言った。
「北斗農業の人たちがくるといいね」
沙希が言った。
「あ、あやしいな……
 沙希ぃ……あのチームに気になる人でもいんの?」
「そ、そんなんじゃないのよ……」
沙希は夕子の突っ込みに慌てた。
「あ、そう言えば、あのチームの田代ってのが虹野さんによろしく、って言ってたっけ?」
好雄が冷やかす。
「早乙女君!」
沙希が真っ赤になった。


その時、入り口から最後のチームが入ってきた。
「あ!」
そのチームを見た詩織が声を上げた。
「間宮君たちだ」
沙希が声を出した。
間宮たちは最後の一枚の籤を引くと詩織たちのテーブルにやってきた。
「いやぁ……なんとか抜けられましたよ」
間宮が席につきながら言った。
「よかたね、間宮君」
夕子がにっこりと笑って言った。そして、
「シオリンと一緒のテーブルになれたもんね」
と、つけ加える。
「え?」
詩織が素っ頓狂な声を出した。
「あの……いや……何でもないんです、シオリンさん」
間宮が慌てている。顔が真っ赤だ。
「あはは……間宮君慌てている、いいじゃんか」
「朝日奈さん……」
間宮が夕子に目配せした。
「ま、いいか……そうそう、えっと……」
夕子は後ろに立っているフロアーディレクターらしき男に尋ねた。
「席は同じチームがくっついて無くちゃいけないの?」
「えっと、……別に構わないですよ」
「あ、そう……そしたら、田代君がそこで……佐藤君がそこ……
 ヨッシー、未緒、一個ずつずれて。間宮君はここね」
夕子は三人に座る場所を指さして教えた。
結局、丸テーブルには、詩織から時計回りに公、沙希、田代、佐藤、未緒、好雄、夕子、間宮の順に座ることになった。
一巡して間宮のとなりは詩織に戻る。
「これならみんないいっしょ?」
夕子がにやりと笑った。
(さすが、朝日奈さん……シオリンさんの隣を譲ってくれるなんて、ありがとう)
(やった、如月さんの隣だ)
(虹野さん、近くでみると可愛いな……)
間宮たち三人は、三者三様の想いはあったが、口には出さずに頷いた。
(さぁ……面白くなってきたぞ……)
夕子は成り行きを見守るべくテーブルを見渡した。

しばらくして司会者が会場に入ってきた。
先ほどまでのラフな出で立ちとは打って変わってビシッとタキシードを着こなしている。
「1回戦を突破したみなさん、おめでとうございます」
司会者が正面の舞台上で話始めた。
「ただ今より、夕食会を開始いたします。
 ゆっくりとくつろいで下さい」

言葉と同時にボーイたちが料理の皿を持って入ってきた。

「やっほ、ご飯だご飯だ!」
夕子が待ちきれないと言った様子でテーブルの上のナプキンを手に取った。
他のメンバーも次々と椅子に座り直す。
その間にボーイたちが目の前のグラスに飲み物を注いでいく。
「ねね、これワイン?」
夕子がボーイに尋ねた。
「ブドウを原材料にしてますが、アルコールは入っておりません。
 山ブドウのジュースでございます」
ボーイが夕子に説明した。
「なぁんだ、残念」
「当たり前でしょ、ひなちゃん。まだ高校生でしょ」
沙希が夕子を睨んだ。
「またまたぁ〜、沙希はお堅いんだから」
「いえ、朝日奈さん。虹野さんの言うとおりだと思います。
 まだ高校生なのに、お酒はいけません」
隣で田代が沙希の味方をする。
「はいはい……」
夕子は仕方なしと言った様子で諦めた。


「では、無事一回戦突破を祝って、乾杯いたします。乾杯!」
司会者の言葉と同時に会場で一斉に
「乾杯!」
の声が挙がった。
「さて、さて……」
好雄が目の前に並べられた料理に手をつけようとした。
「フレッシュフルーツとカッテージチーズのストロベリーピューレ添えでございます」
ボーイが説明して下がっていった。
「な……なんて言ったんだ?」
あっという間にまくしたてられて、好雄が焦っている。
「なんでもいいじゃんか、食べられる物であることは間違いないんだからさ」
夕子が気にもせずにナイフとフォークを料理に付けた。

「美味しい……」
詩織が声を漏らした。
「ホント……美味しいね」
公が同意した。
反対側では間宮も料理に手をつけながら詩織に話しかける。
「いやぁ、シオリンさんと一緒のテーブルになれるなんて、嬉しいです」
「やだ、間宮君たら……でも勝ち抜けて良かったね」
「一時はどうなるかと思ったけれどもさ」
公が間宮に話しかけた。
「そう……負けたと思った……でも、絶対勝つって信念があれば……」
間宮がそう言いかけたとき、夕子が隣で言った。
「ほらほら、クイズに話は一時お休み。
 折角の美味しい料理なんだからさ」
「そうね、ひなちゃんの言うとおりね」
詩織が頷いた。
「あ、そうだ!」
公が思いだしたように言った。
「なに、公くん?」
詩織が尋ね返す。
「あのさ、俺達きらめき高校の二チームは共に決勝に残るって目標だっただろ?
 それに加えて、北斗農業の三チームで決勝しようよ」
「あ、それいいな。
 主人君、良いこと言うな。そうしましょう、シオリンさん」
「そうね、じゃ、三チームが揃って決勝に行けるように……乾杯!」
詩織がグラスを傾けた。
その時、ボーイが次の料理を運んで来た。
「舌平目とブロッコリーのシャンペンソースでございます」

料理は順調に進んでいった。

その最中も、田代は沙希の気を引こうといろいろ話しかける。
「でさでさ……」
「へぇ……そうなんだ。田代君って物知りなんだね」
「いや……あはは……そんなこと……あるかも……」
そう言いながらも沙希は真剣に料理を味わっている。
「虹野さん、随分真剣な目をして食べるんだね」
「え? あ、うん……私、料理好きだから……
 ここのシェフの料理も一度食べてみたかったし……」
「そうなんだ……虹野さんの料理、一度食べてみたいな……」
「え? 何て言ったの?」
沙希がスープから顔を上げて聞き返した。
「あ、いや……なんでもない……」
田代が真っ赤になって俯いた。

その反対側では佐藤が未緒と談笑していた。
「そうなんですか……北海道と言っても広いんですね」
「そうさ……東京に来るのも中学の時の修学旅行以来でさ……」
「そうなんですか」
「でも、さっきの問題、よくわかったね。難しい問題なのに」
佐藤は未緒を誉めた。
「そうですか……私、小さい頃から本を読むことが好きでしたから、必然的にそっちの知識はついてしまって……」
「そうなんだ……すごいや」
「あ、でもその代わり、理科系のことは全然わかりませんし……」
「僕も同じだよ。文系は好きなんだけどな……」
佐藤が頭を掻きながら言った。
「そうなんですか? じゃ、私と同じですね」
未緒も笑った。

「でもよかった……」
詩織がポツリと呟いた。
「え?」
間宮が聞き返す。
「ほら……さっき司会者が『乾杯!』って叫んだでしょ?
 あの後、『かんぱいです。そう、完敗なのは、あなたたちです!』って叫ぶんじゃないかって……」
「まさか……考えすぎでしょ」
間宮が言った。
「いや、それが関東大会でさ……」
公が説明した。
「そうか……関東大会、大変だったんですね……そう言えば北海道大会では……」
しばし、彼らはお互いの地区大会の話を続けた。

それぞれが楽しく食事を進め、それぞれの思いを胸に秘めていた。
そして、最後のデザートを終えて食後のコーヒーが出され、十五分ほどが経過した時、司会者が正面に再び現れた。

「みなさん、食事はいかがだったでしょうか?
 オードブルから最後のデザートまで、楽しんでいただけましたでしょうか?」

司会者が再び舞台上に上がった。
「ホント、美味しかったわ。勉強になったわ」
沙希が手帳を取り出して味つけをメモしていながら聞いている。
「最後に、もう一つ、デザートを御用意してあります」
司会者が言葉を切った。
「デザート?」
公が首を捻った。
「沙希ちゃん、後なにか残ってる?」
「……おかしいわ、料理の進み方からしてもう終わりの筈だけど……」
夕子たちも、田代や佐藤も同じように考えている。
その中で、詩織と間宮だけが椅子に座り直して正面を見ている。
「シオリンさんも、同じ結論のようですね?」
「じゃ、間宮君も?」
二人は頷きあった。
「ちょちょっと……二人で目で会話しないでよ」
夕子が二人に尋ねた。
「あ、そうか。多分この後ね……」
間宮が隣の夕子に言おうとしたとき、司会者が口を開いた。

「そのデザートとは……これだぁ!」
言葉と同時にボーイの扮装をしたスタッフがテーブルの上に機械を並べ始めた。

「えぇ!!!!!!!」
会場からどよめきが起こる。

各人の目の前に置かれているのは、紛れもなく早押しボタンであった。


「ただ今より、2回戦を開始いたします!」
司会者が叫んだ。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル05:「秘めた想い」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子
感想投稿数26
感想投稿最終日時2019年04月09日 22時29分50秒

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