「ふう、少し遅くなっちゃったな。もう少し早く、部活を切り上げれば良かった……」
そう呟いて、美樹は空を見上げた。夏が過ぎたとはいえ、まだまだ日の入りはゆっくりで、六時を回っても辺りは明るかった。
美樹の帰りが遅くなったのは、美術室で絵を描いていたからである。絵を描くのは楽しいし、何より展覧会が近付いている。
自分が家事の当番の日はゆっくりと絵を描いている事ができないが、今日の当番は宗光だった。
最初は、やむを得ず受け入れた同居生活だったが、家事を交代でするのは、まとまった時間が取れるという意味では助かっている。もっとも、自分が当番の日は、仕事が二倍に増えるのだが。
それに、最近の美樹は、宗光に惹かれ始めていた。それを自分でも自覚し始めている。
ふと気づくと、宗光の事を考えていたりするのだ。
そうこうしているうちに家に着いた美樹は、ドアを開けて中に入った。
「ただいま。遅くなってごめんなさい」
当然、美樹としては宗光の返事を期待していたのだが、その期待は裏切られた。
家の中は静まり返り、物音ひとつしない。
「宗光さん……いないんですか?」
再び言ってみるが、やはり返事はなかった。
ドアの鍵が開いていたと言う事は、少なくとも誰かが、家の中に入った事になる。今日は、美樹が鍵をかけたのだ。
可能性としては、宗光が一度帰ってきて、そのあと、鍵をかけずに出かけたか、あるいは不法侵入者がいたか、と言う事になる。
家の中が荒らされている様子はなかったが、それでも少し緊張しながら、美樹はキッチンを覗いた。
キッチンには、誰もいなかった。夕食の準備もされていないし、しようとした形跡もない。
「今日の当番は、宗光さんなのに……」
そう呟いて、美樹はキッチンを出た。
「とにかく、着替えないと……夕食は私が準備するしかないか……」
美樹は、荷物を置くのと着替えるために、自分の部屋のドアを開けた。
だが、一歩中に入って、美樹は体を固くした。宗光が、美樹のベッドで寝ていたのだ。
「え……ええっ!?」
叫んでから、美樹は慌てて、両手で口を塞いだ。
ここで宗光が起きてしまったら、どう反応すればいいのか、全くわからなかったからだ。
だが、美樹の声を聞いて、宗光がベッドから起きあがった。
「ん……あ、あれ? み、美樹ちゃん! こ、これはその……」
宗光は、すぐに自分の状況を理解した。
いつのまにか、自分が寝てしまっていた事、そして、美樹が目の前にいる事……。
「ご、ごめんっ! 疲れてて、帰ってきたらついうとうとしちゃって、その……」
美樹は、両手を口に当てたまま、じっと立っていた。
宗光も、それ以上何も言えず、その場で立ち尽くした。
二人とも黙ってしまい、部屋に重苦しい空気が流れた。
しばらくして、意を決した美樹が口を開いた。
「……と、とにかく、部屋から出て下さい…………」
「あ、ああ……その、ごめん。……あの、俺、夕食の準備してくるから……」
宗光は、美樹の声にビクッと体を震わせた。そして、ゆっくりと、美樹の部屋から出て行った。
宗光が部屋のドアを閉めると同時に、美樹は、その場にしゃがみ込んでしまった。
宗光が自分のベッドにいると知って、美樹が最初に感じた事……怒りでも、嫌悪でもない。
恥ずかしさ。
宗光が、自分のベッドにいる事が、たまらなく恥ずかしかった。
まるで、宗光に、そっと素肌に触れられたような、恥ずかしさ。
やがて、美樹は立ち上がり、洋服ダンスの前まで行って着替え始めた。
宗光が自分のベッドで寝ている光景が、美樹の頭から離れなかった。
「はぁ……」
着替え終わった美樹は、鏡に映った自分の顔を見て、ため息をついた。
ベッドの横まで行き、宗光が寝ていた部分に自分の手を置いてみる。ベッドは、まだ温かかった。
不意に、美樹の顔が赤くなった。
自分が、このベッドで寝ている光景を想像したのだ。
夜になれば、美樹はこのベッドで寝る事になる。宗光が寝ていた、このベッドで……。
次第に、美樹の頭の中がパニックを起こしてきた。
「お、落ち着いて、美樹……」
そう、口に出して言ってみるが、効果はなかった。むしろ、どんどん心臓の鼓動が早くなっていくような気がした。
やがて、しばらく躊躇してから、美樹はベッドに潜り込んだ。
宗光が寝ていたのとちょうど同じ場所に、自分の体を横たえた。
布団を掛けたため、すぐに温かくなってきたが、美樹は別の温かさを感じていた。
宗光の温もりだ。
「宗光さん……」
無意識に、美樹は宗光の名前を呼んだ。
枕から、ベッドから……美樹は、体中で宗光の体温を感じていた。
「なんだか……宗光さんに抱きしめられてるみたい……」
美樹の、宗光に対する想いが、そう感じさせた。
だが、不意に寂しくなって、枕元にあるクマのぬいぐるみを抱き寄せ、きつく抱きしめた。
「宗光さん…………抱きしめて欲しい……」
だが、恥ずかしくて自分から言う事はできない。それに、宗光が自分の事をどう思っているのか、はっきりとはわからない。
悪く思っている事はないだろうが、もしかしたら、誰か好きな女の子がいるかもしれないのだ。
しばらくして、ぬいぐるみを抱きしめたまま、美樹は静かな寝息を立て始めた。
宗光に抱きしめられた自分を夢に見ながら。

Fin

後書き

みなさんこんにちは、おサルです。
今回は、ベッドで寝てるのを美樹ちゃんにみつかっちゃったぞどうしよう!? の別パターンです。美樹ちゃんへの愛情が最大だと、イベントが変化します←嘘です!(笑)
まあ、こういう感じになってもいいんじゃないかな〜、と、いうものです。
いやぁ、しかし美樹ちゃんはかわいいですねぇ(*^O^*) なんかこう、甘えてきたら、なでなでしてあげたいというか……(爆)
それから、け〜さん、遅くなってすいません。本当なら、5日ほど前に送っているはずだったんですが、いろいろ忙しくて……(笑)
それでは、またの機会にお会いいたしましょう。


作品情報

作者名 おサル
タイトルベッドもいっしょ?
サブタイトル
タグずっといっしょ, 石塚美樹
感想投稿数11
感想投稿最終日時2019年04月15日 10時03分41秒

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