どれみのドジが原因でのささいなケンカをしたどれみとおんぷ。
本当は仲直りしたい二人だったが、どれみがよかれと思ってした事がうまくいかずに、気持がすれ違っていく。
やがておんぷは、どれみの行動に我慢出来ず、つい口を滑らせる……


この話は、そういうイメージを描いていた途中に突発的に最初の一行を思いついてそこから勢いに任せて書き出した物です。
上記のイメージを踏まえつつ、この物語の前に何があったか想像しながらご覧いただけると幸いです。
中途半端な方式ですいません。

どれみとおんぷは、どうもあまり仲たがいをしない方向でアニメ本編は話が進むので、こういうすれ違いが欲しいと思って自己満足的に書いた物なので、結構ムチャクチャかもしれません。
時期的には、無印からしゃ〜ぷっの間あたりです。でも実際意識してません。
も〜っとの中間あたりの話に「一人ぼっちの夏休み」という話がありましたが、割とそれにも触発されてます。
そんな感じなので無印でもしゃ〜ぷでもも〜っとでもない世界のどれみワールドと捉えてくだされば幸いです。

あと、割とぶっちゃけますが、どれみ×おんぷという愛情物(レズ)に今後発展していきかねん状態です・・(^^;
今回は、その下準備みたいな物かもしれません。
でも一応普通を心がけたつもりではありますが・・・と、いう事で今回は事情が事情なので、前書きという形で説明をさせていただきました。


では、稚拙かとは思いますが、どうぞ味見をなさってくださいませ

「違うわ! 甘やかすのと友情は一緒じゃない!」
「せやかて……」
「………いいの。もう」
「おんぷちゃん……そんな事言わないで……」
「もっと冷静になったらどうや」
「みんな放っておいてよ。わたしもう……」


一旦止まる言葉。
おんぷの中で、ふくらんだモヤモヤが、ひとつの形になっていく。
本心ではない偽りの心だった。しかし、この瞬間、それはおんぷの本心に摩り替わっていた。

「もう我慢できないの!
 ドジに巻き込まれるのはイヤなの!
 だから……」

もうこれ以上は! と思った時には遅かった。

「どれみちゃんとは絶交する」


その瞬間、はづきとあいこの表情が凍りついた。
二人の視線の先は、おんぷではなく、その背後に向けられていた。
おんぷがそれに気づいた。
瞬時に、おんぷの顔から血の気が引いた。自分の背後に居るのが誰だかすぐにわかったからだ。

聞かれた。今の言葉を聞かれてしまった。

本心じゃなかった。
ここだけの言葉の筈だった。
それを一番聞いて欲しくない人が、自分の後ろに居る。


おんぷは、振り向く事も出来ずに、小さく震えた。

どうしよう。
なんて事を言ってしまったんだろう。


「あたし……おんぷちゃんに迷惑かけてばかりで……
 ……その……嫌われたってしょうがないよね。
 ………そうだよね……ごめん……ごめんね」

おんぷは、背中でどれみの声を聞いた。
どれみの声が震えているのがわかった。

違う。そんな事ない。違うのに。

おんぷの頭の中で、出口を失った言葉が渦巻く。

このまま振り返って謝れたら。謝らなくちゃ。
本当は仲直りしたかった。それなのに……

それでも振り向く事が出来なかった。
自分の身体じゃないみたいに動かなかった。

「あ、あのな、どれみちゃん、違うねん……おんぷちゃんかてそんなつもりで」

あいこが笑顔を無理矢理作った。
その時、おんぷは、何かが落ちる音を聞いた。同時に駆け出す音がした。

「あ、どれみちゃん!」

はづきが手を伸ばす。しかし、はづきの声はもうどれみには届いていなかった。
弾けるように開いた扉の音がおんぷの鼓動を竦ませる。

「と、とにかく追いかけなくちゃ!」

間髪いれずにはづきが駆け出した。
あいこが苦々しそうな表情をおんぷに向けた。

「おんぷちゃん、ええのか。これでほんまにええのか?」

おんぷは何も答えずに、身動きひとつしなかった。
あいこは、奥歯を噛み締めてから、すぐにはづきを追いかけて駆け出す。
ドアの所で立ち止まって振り返ったはづきが、

「わたしたちが必ず連れて帰るから……おんぷちゃんは待ってて。お願いよ」

そう言って、飛び出していった。

二人が出ていってから来たのは、耳を塞ぎたくなるほどの静寂だった。
世界中からたった一人取り残された気分だった。

おんぷは、小さな拳を震わせていた。

もうどうしようもない。

そう思うと、悲しくて悲しくてしょうがなかった。
なんであんな心にもない事を言ったのか。
どうかしていた。
本当は仲直りして、どれみと笑い合いたかった。
少し前に戻れれば、あんな事を言わずに済んだのに。

「魔法……」

おんぷはつぶやいたが、小さく頭を振った。
無駄な事に気づいたのだ。
一人の力では戻れない。それに、今の気持ちのまま戻っても取り返せない。
あの瞬間の言葉は、例え本心じゃなくても心に思った事には違いないのだから。
だから、戻って口を閉じても、そう言った自分を消す事が出来なければ意味がない。

なんて無力な力なんだろう。
なんでも出来る筈の力なのに。

ゆっくりと振り返った。
さっきどれみが立っていたあたりだろうか。紙袋が落ちていた。
自分でもぎこちないと思える程の足取りで近づいて、膝をついて紙袋を拾い上げようとすると、小さな箱が袋からこぼれ落ちた。

両の手のひらの上に乗るくらいの、小さな箱だ。
丁寧に包装されて、綺麗な紐で結わいてある。

「これは……」

紐と箱の隙間に、封筒らしき物が挟まっているのに気づいた。
宛名が書いてある。

自分宛だ。

矢も盾もたまらず、封筒を引き抜いて、開封した。

「……………」

中に入っていた手紙を読んでいたおんぷの目からは、涙が溢れてぼろぼろとこぼれ落ちた。
止めたくても止まらなかった。
手紙の上に涙が零れ落ちる。
つまんだ指に力が入り、手紙の両端に皺がよっていく。

「どれみちゃん……どれみちゃん……」

手紙を抱きしめるように、胸に引き寄せて、嗚咽をあげた。
自分ばかり相手を傷つけてしまった。
ドジでおっちょこちょいだけど、自分みたいに人は傷つけない。そんな相手を傷つけてしまった。
自分が傷つく事よりも、辛くてしょうがなかった。
それがどうしようもなく悲しくて、また涙が溢れだした。
「わたしも……仲直り……したかった……」

MAHO堂に、おんぷの泣き声が静かに響いた。

「はぁ……どれみちゃんどこ行ったんやろ……」
「おんぷちゃんに約束したのに……どうしよう……」

帰ってきたあいことはづきが、ため息をつきながらMAHO堂の扉を開けた。

「おんぷちゃん……どうしてるかしら……」

入って見回すと、レジ前のテーブルの前におんぷが座っていた。

「あ、あの、おんぷちゃん……ごめんなさい……
 どれみちゃん見つからなくて……
 約束したのにほんとにごめんなさい……」
「あ、あとでどれみちゃんちに寄ってみるわ。
 大丈夫やって、どれみちゃんあんなんやから、あとでケロっとして……」

あいこがそこで言葉を止めた。
そんな訳がない事くらい、あいこもはづきもわかっていた。
明るくて元気でも、傷つかないほど強くないのは、二人も良く知っていたし、無論おんぷもそれは同じだった。

おんぷに近づいていくと、テーブルの上に小さな包みが解かれた物が乗っているのが見えた。
白い塊が無造作に山盛りになって、赤い物や茶色っぽい物が、その不細工な山の中に埋もれている。
もし包みを解いた跡がなければ、それがなんなのかわかるにはもっと時間がかかっただろう。

「それ……ケーキ?」

はづきがたずねると、俯いたおんぷが、声も無く小さく頷いた。

「どれみちゃんが持ってきたんか……」

再びおんぷが頷く。

「わたし……取り返しのつかない事しちゃった……」

今にも消えてしまいそうな声も、二人の耳には届いた。

「ううん。そんな事ないわ。
 きっとどれみちゃんだってわかってくれるわ」
「そや、おんぷちゃんだって、悪気があって言った訳やないし……」
「わたし……もしどれみちゃんがいても、もっと別の言葉でひどい事言ってたかもしれない。
 どれみちゃんが少しでも傷ついたらいいって思ってかもしれない……」
「………お、おんぷちゃん」
「だから、もう……わたしどれみちゃんに……もう……」

言葉はそこで止まった。
二人は、おんぷの顎から膝にこぼれ落ちる涙を見た。

人前で涙なんてほとんど見せないおんぷが泣いている。
こんなおんぷを見たのは、あいことはづきにとってもにとっても初めての事だった。

不意に、はづきがぎゅっと唇を噛んだ。
これからすることに勇気と弾みをつけるために。
溢れようとする物を必死に抑えるために。

「泣いたって始まらないわっ。
 二人の事は二人で解決しないとどうしようもないじゃない。
 わたし達に出来ることはするけど、最後はおんぷちゃんとどれみちゃんの問題なのよ……
 だからお願い……おんぷちゃん、どれみちゃんに……」
「せや。はづきちゃんの言うとおりや。
 それに、おんぷちゃんがホンマにどれみちゃんの事嫌いやったら、なんで泣くんや。
 おんぷちゃんどれみちゃんの事大好きなんやろ。
 だから泣いてるんやろ。
 だったらする事なんて一つしかない」

二人は、目じりに涙を浮かべていた。だが、こぼす事はしなかった。
こぼしたら終わってしまう。もし頬を伝ってしまったら、もう何も言えなくなってしまう。
だから、ぎゅっと力を入れて我慢をしていた。

「…………」

あいことはづきの言う通りだった。

なぜ自分は泣いているんだろう。自分よりもずっと辛い人が居る筈なのに。
不意に、おんぷの中に、どれみの表情が浮かんできた。

いつも元気に笑っていた。
ドジをしても前向きだった。
誰かの為に一生懸命だった。

今まで、どれだけそれに救われた事か。
今の自分が、今まで以上に好きになれたのは、どれみ達に出会ったからだ。
どれみ達と居る自分が大好きだし、それ以上にどれみ達の事も大好きだった。

もしどれみが居なかったら………

思い出の中から、どれみの姿が消えていった。
胸の中の一番大切な部分がその度に消えていく。
もしこのままこうしていれば、一生埋まらない穴が胸に開くだろう。
考えたくも無い事が、溢れ出る涙にブレーキをかけた。

おんぷは立ち上がった。
こんな所で泣いている場合じゃない。

ぐいっと涙をぬぐってから、はづきとあいこに目を向けた。
泣き腫らして赤くなった目でも、向ける事にためらいは無かった。

「ありがとう。はづきちゃん、あいちゃん……
 わたし……行ってくる……」
「うん。頑張って、おんぷちゃん」

はづきが笑顔を作った。
細めた目からは、押し出されて溜まった涙が頬に流れ落ちたが、笑顔の上を伝うなら、いくらでも。とでも言うように光った。

「ファイトや!」

あいこが鼻を鳴らしてから、手を突き上げた。
おんぷが二人に頷いてから、もう一度涙を拭った。迷った瞳はもう無かった。

正直、どれみがどこに行ってしまったのか確信は無かった。

自分が思い当たる所など、はづきやあいこが行っているだろう。
それでも……とおんぷは思う。
知っている限りの場所へ行こう。この街にある思い出の欠片が少しでも残ってる所へ。
それしか出来ないのだから。


とにかく走った。
こんなに走った記憶は今まで一度も無い。でも、なんてことは無かった。
どんなにガムシャラに走っても、みっともなく息を切らせても、それがなんだというのだろう。

「どれみちゃん……どれみちゃん……」

自分の中から抜け出していくどれみの後姿を追いかけた。
いつもなら、振り返って微笑んでくれる。楽しそうに話してくれる。
それなのに、今はどんどん先へ行ってしまう。手の届かない所へ行ってしまう。
だが、ここで止まる訳にはいかなかった。
もし止まってしまえば、もう二度と手の届かない所へ行ってしまいそうな気がした。

公園についた。
どれみの姿は無かった。
気持ちよさそうにベンチに座って空を眺めている姿が幻のように重なってすぐに消えた。

学校にも行った。
河原にも行った。
ぱっと思いつくところは一通り回った。

だが、影も形も無い。

おんぷは、どれみが自分の姿を見て隠れてしまったのではないかという不安に駆られたが、首を振った。
そうじゃない事を信じなければ、もう身体がもたなかったからだ。
それから、次々に少しでも思い当たる場所を回った。
少しでも二人で居た場所があれば、そこに向かった。
すでに太陽が傾いて、空はオレンジと紫のグラデーションに染まっていた。
紫が濃くなってしまうと、今日が過ぎてしまう。
そんな焦りがおんぷを突き動かした。

日が沈むまでにどれみに会えなければ、もう……

もうほとんど走る力も無くなっていたが、足が止まらなかったし、気持も同様だった。

「どこに……いる……の……」

息も絶え絶えになって、うまく喋る事も出来ない。
不意によろけて、電柱にぶつかった瞬間に、ポケットからタップが転がり落ちた。
よろけながらタップを拾おうとした瞬間、おんぷの耳に、懐かしいざわめきが聞こえてきた。
それはタップから聞こえてくる音だった。
聞こえてくるというより、感じる音だったろうか。
ざわめきは大きくなり、そして引いていくように小さくなって、また大きくなる。
その繰り返しのリズムを作っていた。
「これは………」
おんぷには、その音がなんなのかすぐにわかった。
これはどれみが聞いている音に違いない。
どれみは、この音のする場所に居る。

それは確信だった。

おんぷの胸の中に、締め付けられるような悲しみが溢れてきた。
こんな気持のまま、たった一人で………こんな空の下で……
泣きたいのをぐっと堪えて駆け出した。

タップから聞こえてきたのと同じリズムが、空気一杯に広がっていた。
同時に、懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
だが、今のおんぷには、その音も匂いも、ゆっくり感じている余裕はなかった。
喉の奥は乾き、飲みこむ唾も少ない。
少しでも空気を大きく吸い込めば咽てしまうだろう。
水平線が沈み行く太陽に照らされて、黄金色に輝いていた。
今年は、あと一回くらいは海に行きたかったね。
いつか言ったどれみの言葉を思い出していた。
来年は、一緒に沢山いこうね。
自分はそう答えた。

約束した場所だった。

「どれ……み……ちゃん……」

堤防から砂浜に続く階段を駆け下りて、肩を上下させながら見回した。
もう秋の風も微かに冷たさを帯びている中、しかもこんな時間に浜辺に人の姿は無かった。

たった一人、座り込んでいる小さな姿以外は。

安堵で身体の力が抜けるのをなんとか奮い立たせて、ゆっくり近づいた。

なんて言おうか。
どういう顔で会おうか。
そんな事はまったく考えていなかった。とにかく会うだけだ。

会ってこう言おう。
ごめんなさい。と。

もし許してくれなかったら?
それでも……

その時だった。
重くなった足を砂浜に取られて、よろけて思わずあっと声をあげた。
砂浜に座っていたどれみが、その声に気づいたのか振り返って驚きの表情になった。
おんぷと目が合う。

「どれみちゃん……」

おんぷが表情を和らげた瞬間、どれみが立ち上がって駆け出した。
おんぷとは逆の方向に。

「!」

後姿を呆然と見ながら、どういう事かに気づいて、慌てておんぷは追いかけた。

「待って、どれみちゃん!」

もう砂浜を駆ける体力など残ってはいない。
でも、ここで追いつけなければ、大切な何かを失う気がして、必死に走った。

「どうして……どうして逃げるの……まって……」

声をかける度に、どれみの走るスピードがあがっていく。

「待ってぇ!
 ……お願い……待って! わたし……わたし……」

ごめんなさい。そうは言えなかった。もう空気を言葉に出来ない。
もう声をかけるのは限界だった。
かすれ行く視界から、どれみの背中が遠のいていく。
あと数歩で走る力はもう無くなるのがわかった。

もうだめなの……?

そうなりかけた時だった、前を走っていたどれみが砂浜の流木に足を取られて派手に転んだ。
最後のチャンスに、おんぷの足は最後の力という力を一滴残らず振り絞った。
起き上がろうとしたどれみの腰に飛びつくように抱きついた。
二人は砂浜に倒れこむ。

「どれみちゃん、逃げないで、お願い!」
「ごめん、おんぷちゃん……」

どれみはそう言って、どれみはおんぷを振り払った。
あっさりおんぷの腕から逃れる。

「あっ」

もうおんぷに立つ力は残っていなかった。
砂浜に倒れ伏したまま、走り去っていくどれみを見つめる事しか出来なかった。
やがて、それも辛くなって、完全に倒れこんだ。
もはや、どれみが去っていく後ろ姿も見られない。

もうダメなんだ……もう………

そう思うと、どうしようもなく涙が溢れてきた。
頬を伝う涙が、砂に落ちて吸い取られていく。
きっと砂まみれでひどい顔になっているに違いない。

でも、そんな事はもうどうでもいい。

おんぷは砂を叩いた。叩いても痛くないのが憎らしかった。
せめて痛ければ、どれみの気持にわずかでも近づけるかもしれないのに。
それよりもどれみにちゃんと伝えられなかった事が悔しかった。

何度も何度も叩いた。

やがて叩く事にも疲れて、ただ砂浜に倒れたまま、潮騒だけを聞いていた。
どれくらいそうしていただろう。
もう深い蒼が降りてきて、街の明かりが目立つようになってきた。
その時だった、誰かが自分の側に立つのを感じた。

「………おんぷ……ちゃん……」

どれみの声だった。
おんぷははっとなって、身体を起こした。
どれみがと目があった。心配そうに眉を寄せていた。

「…………」

もう遠くへ行ってしまった筈の大切な何かが目の前に居る。
それが信じられなくて、おんぷは呆然とどれみを見つめた。

「だ、大丈夫……?」
「………」
「おんぷ……」

どれみはそこまでしか言えなかった。
おんぷが抱きついたからだった。
散々泣いた筈なのに、まだ涙が残っていた。
どれみに抱きついたおんぷは、大きな声で泣いた。

傷つけてごめんなさい。
どうして逃げたの。
辛かったよね。
辛かった。
悲しかった。


今は、渦巻いた感情が言葉になることは無かった。

二人は、無言のまま砂浜に並んで座っていた。
散々泣いたおんぷが落ち着いた所で、どれみがおんぷの砂を払って、ハンカチを渡して座らせて、それっきりだった。
ただ、おんぷのすぐ側には座らなかった。
間に一人入れるだけの距離の所だ。
どれみの本心からすれば、逃げたかった。傷ついた心がまだ癒えている訳ではなかったからだ。
しかし、今こうして逃げずに居るのは、おんぷを心配する気持が強かったのと、おんぷの涙のせいだった。
それを放って逃げられる性格ではない。


すでに、夕日が半分以上水平線に消えていた。

「あ、あの……」

二人同時にそう言って、顔を見合わせた。
ハッとなって、また視線をそらせた。

聞きたい事があった。
言いたい事があった。

長いようで瞬間の沈黙の後、それを破ったのはどれみだった。

「ほ、ほんと、わたしってドジばっかだし……おんぷちゃんに嫌われたってしょうがないんだよね……
 おんぷちゃん、わたしよりずっとしっかりしてるし、わたしなんかが一緒にいたら、迷惑かけるだけになるもんね。
 ……だからもう……いいの。いいんだ……」

もういい。

その言葉が、おんぷの胸の奥をぎゅっと締め付けた。
その痛みは、自分の言葉に傷ついたどれみと同じ痛みだった。

「違う、違うの。
 そうじゃないの………わたしが……」

どれみに嫌われたと思ったのは、さっきの自分だった。
逃げていくどれみの背中を追っていた時、MAHO堂で自分の背中を見たであろうどれみと重なった。
言葉で言われた分、もっと辛かったに違いない。
おんぷは立ち上がって叫んだ。

「だから、もういいなんて言わないで!
 そんなのどれみちゃんらしくない!
 わたし、どれみちゃんの事大好きなのに! 大好きだから! ……だから……お願いだからそんな事言わないで……」

いつか遠い未来でも、この気持を思い出すと涙が出てくるだろう。
じわっと滲み出る涙を感じながらそう思った。

「おんぷちゃん……」

どれみは驚いておんぷを見つめた。
落ちていく太陽が最後の光で、おんぷの涙をどれみに見せていた。

おんぷは、下唇を噛んで身体を震わせていた。
次の瞬間、どれみが立ち上がっておんぷに抱きついていた。

「おんぷちゃぁぁんうわぁぁぁん……」

涙よりもなんとか先に言う為に振り絞った声だった。
背中に回した指に力が篭もる。悲しくてたまらなかった。辛くてたまらなかった。
そんな思いが、ようやく行き場を見つけたのだろう。
おんぷは、どれみの腕と指に力が篭っても、痛くなかったし、苦しくもなかった。
走っている時の苦しみに比べたら、むしろ心地がいい。
探している時の不安に比べたら、なんていう事は無い。
辛さを全部受け取れるなら、もっと力をいれたっていい。

「ごめんね……どれみちゃん……ごめんね……」

おんぷは、言いたかった事を何度も口にしながら、どれみの背中に手を回した。

辛かったんだよね。
悲しかったんだよね。
ごめんね。
ごめんね……


冷えた身体に、お互いの温もりが何よりも気持ちよかった。

夜の帳がすっかり街を包んでいた。
そんな中、二人の少女が手を繋いで歩いていた。
特に何も話すでもなく、黙って歩いていたが、その足取りは軽かった。
二人は時折顔を見合わせては、微笑を浮かべあう。
言葉よりもそれだけで今は良かったのだろう。
例え繋いだ手が離れても、あの二人はいつまでも繋がっているに違いない。
二人の少女とすれ違った人々は、しばらく歩いてからそんな事を考えて、柔らかく目を細めるのだった。


END

後書き

どれみは割と周囲の人たちを繋ぐ役回りばかりで、渦中の人になることはあまりないので(当初は非常に多かったけど)一波乱欲しかった。
あと、おんぷともまともにやりあって無いので、二つの事を満たそうと思ってやったのが今回のお話です。
あと、個人的な嗜好がたっぷり入ってます(これがメインともいえる)(笑)。

おんぷが変わったのは、やはりどれみの影響ってことも見逃せないと思う。
無印で登場したての頃のおんぷと、今のも〜っとのおんぷでは、あからさまに違うすよね。
どれみが割と自由に生きているのに対して、おんぷは内心無理して生きてきた感じ。
そんなおんぷがどれみに影響されたっていうのを見るのは、非常にヨイです(^^)
どれみがあんまり変わらないのは、自然体だって事だからでしょうか。
精神的成長は微妙にしてるのですが、さほど目立たないのが残念ではあります。
も〜っとに関しては、ハナちゃん登場とおもちゃ回のクドさがちょっと目について、しかも登場人物が多くなっているので、散漫になりがちなのが気になります。
ほんとに作りたい物と、玩具との関連で、自由に話を作れない不自由さも感じるけど、それでも面白いのはやはり変わらんので、今後の展開にも期待ってところです(^^)


作品情報

作者名 じんざ
タイトルおジャ魔女どれみ
サブタイトル涙はやがて二人を育てる水のように
タグおジャ魔女どれみ, 瀬川おんぷ, 春風どれみ, 藤原はづき, 妹尾あいこ
感想投稿数105
感想投稿最終日時2019年04月13日 06時54分56秒

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  • [★★★★★★] ”正統派どれみ路線”でとても素敵な物語でした。私は”おんどれ”派なので見たい気もします、”どれみ×おんぷという愛情物(レズ)”。露骨な性描写はパスしますけど。
  • [★★★★★☆]
  • [★★★★★★] どれみさんの「ごめんね」には破壊力があり過ぎます。ごふっ!
  • [★★★★★☆] どれみちゃん、おんぷちゃんの彼女達のそれぞれの気持ちが読んでいてすごく伝わって来ました。
  • [★★★★★☆] 次は、はづきとあいこですか?楽しみ!
  • [★★★★★☆] この続きだと危ない方向に行きそうなので、どれみの別の話が読んでみたいな
  • [★★★★★☆] この感動は言葉では書けません!!
  • [★★★★★☆] どれみちゃんのために必死になったおんぷちゃん、おんぷちゃんを想って泣いたどれみちゃん、ふたりの友情が伝わってきました。
  • [★★★★★☆] ^^
  • [★★★★★☆] 泣けた。
  • [★★★★★☆] おんぷちゃんとどれみちゃんの友情関係というものが深く心に刺さりました!
  • [★★★★★★] 凄い、映画だ、一つ一つのシーンが脳裏に!
  • [★★★★★☆] ほんわかできる話をこれからも希望です
  • [★★★★★★] おんどれの作品の中でも1、2を争うできです。
  • [★★★★★★] すごいおもしろかったです。天才?なんかファンになりそう。
  • [★★★★☆☆] キャラクターの心情描写が良かったです。
  • [★★★★★★] 続編はまだか!?と言いたいくらい面白かったです。個人的にあいことはづきの行方も気になります。
  • [★★★★☆☆] どれみの居場所がわかる理屈をもうちょいわかりやすく☆
  • [★★★★★★] やはり(おんどれ)はいいですねぇ・・続編プリ〜ズ!!
  • [★★★★★★] OK
  • [★★★★★★] ここまで続きが気になる終わり方をされて、「続きを希望しますか?」は酷な話です!ええ、最高ですた。心に残ります。
  • [★★★★★★] これはいい!ドッカーンの本作にも取り上げてほしいね。最近こういう話がなくなってきてるからさ・・・・
  • [★★☆☆☆☆] 海辺のシーンがなんかセンチメンタルでした
  • [★★★★★☆] 失いたくない本当の気持ち、知って欲しかった本当の自分、涙で交わった二人の心が、すごく感動を与えてくれました。あいちゃんとはづきちゃんの思いやりも素敵でしたね。感涙を与えてくれて本当に有難うございます。
  • [★★★★★★] 泣きそう。心が痛む。どれみ・おんぷ互いの消え入りそうな心細さが分かります。なにか自分の過去とも重なって・・・それでも素直に大声で泣けない,そんな大人になった自分が一層悲しくあります。
  • [★★★★★★] なきそうです
  • [★★★★☆☆] できれば主役以外の2人の役割があってほしかったのれす…
  • [★★★★★★] また、読みました・・・やはり、何度読んでもいい!次回に期待です!!
  • [★★★★★★] がんばって!どれおん最高!!
  • [★★★★★★] 感動しましたっ!すごくいいです^^
  • [★★★★☆☆] おんぷの心の中でのどれみの存在感・・・。その大きさがじんわりとつたわってきました。
  • [★★★★☆☆] サイコー
  • [★★☆☆☆☆]
  • [★★★★★★] ヒマさえあれば何度も読み返してます。本当に良かったです。
  • [★★★★★☆] 次回作も、期待している次第でございます!
  • [★★★★☆☆] おジャ魔女は百合視点以外で見られません!お仲間を発見でき真にうれしゅうございます。
  • [★★★★★★] 最高です
  • [★★★★★☆] 最高でーす!
  • [★★★★★★] 互いを思いやる気持ちが伝わってきました。あと、安易に魔法を使わず(まさに)自力で問題を解決したところもいいと思います。
  • [★★★★★★] 言ってしまった後悔や、時間の戻らなさが切々と伝わって、生きてるなぁって感じです(^^;
  • [★★★★★★] 見ても見飽きない
  • [★☆☆☆☆☆] 絵を入れてみたら……
  • [★★★★☆☆] いいですね。こういう話w
  • [★★★★★★] この後の展開きになるなー、気になるよー。
  • [★★★★★★]
  • [★★★★★☆]