【ニューヨーク】

(来てしまったか……)

間宮は目の前に広がる摩天楼に圧倒されていた。
(しかも……彼女たちと一緒に……)
間宮は控え室の方を見た。

(この日のために……俺はこの仕事を選んだのかもしれないな……
 彼女たちの勇姿を映像として残すために……)

暑い高校生クイズの夏から数えて、4度目の夏が巡ってきた。
間宮が友人達と共に戦いを繰り広げた、あの夏の日の出来事は、4年前の思い出となっていた。
「間宮〜! テープ大丈夫か?」
先輩が間宮に向かって怒鳴り声を上げた。
「あ、はい!
 今、真美が車に取りに行っています!」
慌てて先輩に返事をする。
「本番まで時間がないからな! 急げ!」


高校卒業後、間宮は東京にあるテレビ電気関係の専門学校に進んだ。
2年間の課程を修了した間宮は、昨年の春からクイズ番組を専門に取り扱う番組製作会社のカメラスタッフとなっていた。
そして、2年目の今年、念願叶ってアメリカロケの技術スタッフの一員に選ばれていた。
「マミく〜ん、これでいいのかなぁ?」
小柄な女性が大きな箱を抱えてヨタヨタと走ってきた。
「おう、それそれ。
 こっちにくれ。予備の分は後ろの機材の上につんどいてくれ。
 それから、真美さぁ……そのマミくんってのはこういう場では……」
間宮がその女性に呼びかけたときだった。

「マミくんに、呼び捨てで真美とはねぇ……なかなかやるねぇ……」
後ろから誰かが声をかけた。
「……ぬ……主人? 主人か?」
間宮が振り返ったそこに立っていたのは主人公だった。
「お前……確か……ロスじゃ……」


公は卒業後、ロスの大学に進学していた。
ロスにいるはずの公がここニューヨークにいる……間宮は頭が混乱していた。
「何言っているんだよ。
 俺にしてみれば単なる国内旅行さ。ニューヨークなんて国内便だぜ」
「あ、そう……そうだよな……
 でも……なんでここに?」
間宮は公に聞き返した。
「だって、ほら詩織が……」
「あぁ……藤崎さんが……」
間宮は納得した。それならわかる。
「びっくりしたよ。
 いきなり電話があって『公くん、明日ニューヨークに来て!』だもんな。
 何のことかと思ったぜ」
「でも……これは見る価値あるだろ?」
間宮は20メートルほど離れたところに組み立てられている野外セットを指差した。
「あぁ……4年越しに実現したんだからな……」
公は間宮が指差した方を見て頷いた。

「で、まだ時間あるの?」
公は間宮に尋ねた。
「……っと……あと20分くらいかな?
 でも本番前に出演者には会わせられないぜ。
 いくらお前の頼みでも」
「わかってるって。
 ところで日本を離れて長いんだけど……なんていったっけ……あ、そうだ、佐藤と田代。
 あいつらは今なにやってるの?」
公は間宮の昔なじみのその後の消息を尋ねた。

【同時刻、日本、東京・きらめき市】

ピンポーン

玄関のチャイムの音がする。
佐藤はベッドの中で無視を決め込んでいた。

ガチャリ……

鍵が開いて、誰かが入ってくる。
「未緒……か?」
佐藤はベッドの中から、部屋に入ってきた未緒に声を掛けた。
「おはようございます。
 編集長から早く原稿貰ってこいと言われました」
「……できてる……机の上にあるから……持ってって……」
眠そうな声の佐藤に、未緒は机の上の原稿用紙を封筒に入れると、コーヒーを入れ、朝食の支度を始めた。
「今日、大学はどうするんですか?」
「ん〜、一応出るつもりだけど……未緒は?」
パジャマのまま、未緒の後ろに立った佐藤が尋ねた。
現在、二人とも一流大学の文学部の4年だ。
「私は真面目な学生だから出ますよ、講義には。
 でもその前にバイト先の出版社に廻って、植木賞作家の佐藤先生の原稿を編集部に届けないといけませんからね……」
未緒は佐藤に向かって微笑みながら手元の封筒を示した。
「わかった……じゃ、お昼は一緒に食べよう」
「あら、朝食は一緒じゃないんですか?」
未緒が不満そうに言った。
「その前に……未緒を食べないと……」
佐藤の手が未緒のエプロンの下に回っていった。
「もう……だめですよ。
 それより、間宮さんから連絡ありましたか?」
未緒が佐藤の手を払い除けて言った。
「うん、夕べ。
 ニューヨークだって」
「そうですか……では、いよいよなんですね……」
「うん……」
未緒と佐藤は初めて出会った4年前の夏……高校生クイズを思い出した。

カランコロンカランコロン……

「あ、すいません。まだ準備中……何だ、田代君か」
準備中の札を無視して入ってきた客に沙希は声をかけたが、すぐに相手の顔を見て微笑んだ。
「朝御飯、まだなの?」
「むにゃ……うん……」
田代が眠そうな顔で頷いた。
「昨日も遅かったんでしょ。
 ダメよ。ちゃんと規則正しい生活をしないと。
 モーニングセット、サービスするね」
沙希が母親のように田代に注意しながら、トーストを焼き始めた。
田代は現在二流大学4年。沙希は近くの喫茶店で仕事をしている。
「卒業研究が詰まっていてさ……
 う〜ん、間に合わないと留年だしなぁ……
 サッカーの実績を認めてくれても良いのに……」
「そんなのダメ。ちゃんと単位は自力で取らないと。
 でも……ふふふ……」
沙希は笑った。
「どうしたの?」
「大学二部リーグのベストイレブンが留年の危機……ファンが減るかもね」
「それならそれで、楽で良いよ。
 面倒なんだ。
 間宮は自分のやってる『東京フレンドスタジアム』に出てくれって言ってるし……
 人の気も知らないで……」
沙希の意地悪い笑顔に田代が答えた。
「だめよ、もうすぐプロに成るんだから、ファンは大切にしないと……
 で、どこにするの、チーム」
「ん〜……Jの準加盟チームがいいなぁって。
 あ、そうだ伊集院系のヴィエントきらめきが熱心でね」
「そうなんだ。
 大学から始めたのにプロになるなんて……すごいなぁ」
沙希が感心したように言う。その間もフライパンを動かす手は休めない。
「沙希ちゃんの言うとおりだけどさぁ……でも……」
そのせいで卒業研究が進まず、留年しそうになっているのだ。
「じゃ、頑張ってね。これサービス」
そう言って沙希はカウンターの田代の前にコーヒーとスクランブルエッグにトーストとコールスローサラダと言う朝食を置いた。
「いっただきま〜す」
そう言いながら食べ始めた田代を見つめる沙希の目は幸せそうだった。
「それと、これはお昼の分」
そう言って田代の目の前に置かれたのは、沙希特製のお弁当、通称・虹弁だった。
「そういえば、間宮君から連絡あった?」
沙希が尋ねた。
「あぁ、夕べ。今頃は決勝をやってる頃だと思うよ」
「そっか……いよいよか……」
沙希は4年前のことを少し思い出していた。
田代と初めて出会った。あの高校生クイズの夏を。

【同時刻、ニューヨーク】

「そうなんだ……みんな頑張っているんだな。
 ……で、間宮は?」
佐藤や田代の近況を聞いた公は、目の前の間宮に意味有り気に笑いながら尋ねた。
「お……俺は見ての通りのただのテレビスタッフ……」
「こら、マミくん!
 油売ってちゃいけないぞ!」
いきなり間宮の背中に飛びついてきた女性がいた。
「あ、あぶないなぁ……真美……」
その様子を見た公がニヤニヤと笑っている。
「あ、こ、こいつは……制作プロダクションの後輩で金星真美……
 真美、ほら前に言っただろ? こいつが主人」
間宮は公と真美をお互いに紹介した。
「あぁ! この人がマミくんが言ってた……」
「そ、主人公……4年前の高校生クイズ優勝チームのメンバーさ」
間宮は笑って答えた。

「では、本番始めます! スタッフはスタンバイして下さい!」
チーフらしき人物が声をかけた。
「じゃ、悪い。仕事だから……
 そこで見ていていいから。
 真美、行くぞ」
間宮は公にそう声をかけると、真美を引き連れてセットの脇に移動した。

静かに入場の音楽が流れ始めた。
二人の女性がしずしずと入場してきた。
(来たか……詩織……)
公は遠巻きに詩織を見ていた。
(4年前の約束が……やっと実現するんだな……)

「アメリカ横断ウルトラクイズ、決勝を迎えました」
司会のアナウンサーが厳かに進行を開始した。

「今年のウルトラ、ニューヨーク決勝は第4回大会以来の女性同士の決勝となりました」
間宮のカメラが二人の女性を捉えている。
「それでは決勝に進んだ二人の戦士をご紹介します。
 向かって左側の席……藤崎詩織さんです」

間宮はフレーム内に詩織のアップを捉えた。

「覚えて居られる方もいらっしゃるでしょう。
 4年前の高校生クイズ優勝者です。
 現在一流大学4年、クイズ研究会会長。
 クイズ戦歴をご紹介しましょう。学生クイズ王を3回。
 『パネルクイズアタック25』パーフェクト優勝。
 『クイズカルトマン』クラシック音楽大会優勝。
 しかし、ウルトラとは相性が悪いのか、過去三年はいずれも成田ジャンケン敗退、東京ドーム敗退、グァム泥んこ敗退とアメリカ本土を踏むことができませんでした。
 しかし、学生生活最後のウルトラで見事アメリカ上陸、ここニューヨークまで駒を進めてきました」


(公くん……来てくれたんだ……)
詩織はスタッフの後ろから見ている公を見つけた。
(見ててね。精一杯頑張るね……)


「そして、向かって右側の席です」
間宮はカメラを右にパーンした。


「朝日奈夕子さんです」
カメラのフレーム内には夕子の姿が映った。

「こちらも4年前の高校生クイズのベスト4経験があります。
 藤崎さんとは高校時代からのクイズ仲間。
 現在フリーター。
 他のクイズには出場せず、ウルトラクイズのみ出場のため藤崎さんほどの派手な成績はありません。
 その中でウルトラクイズでは藤崎さんを凌ぐ成績を収めています。
 過去三回出場で、シアトル、ハワイ、ワシントンまでそれぞれ進出。
 いずれも国外脱出、本土上陸2回の強者。
 昨年は惜しくも準決勝で敗れましたが、今年は遂に念願のニューヨークにやってきました」

(あ、公くんだ……そっか、シオリンが電話してたもんね)
夕子もめざとく公を見つけた。
(そう言えば……ヨッシーどうしてるのかな……)

【同時刻、東京・きらめき市】

「クシュン……」
「もう……お兄ちゃん、汚いなぁ……
 風邪? でも、何とかは風邪引かないっていうのにね」
朝食の席で大きなくしゃみをした好雄は優美に叱られていた。
「……どうせ夕子があっちで悪口言ってるんだろう」
「ふ〜ん、お兄ちゃんみたいな三流大学を留年した落ちこぼれとつき合ってくれるのなんて朝日奈先輩だけなんだからね。
 大事にしないと……」
「そう言う優美はどうなんだよ。彼氏もいないくせに」
「ぶー……」
好雄の言葉に優美はふくれっ面になった。
早乙女優美、二流短期大学卒業後、今年からアニメ声優を目指して勉強中である。

【同時刻、ニューヨーク】

「二人は4年前の高校生クイズで、一緒に決勝戦を戦うと言う約束をしながら実現しなかったそうです。
 しかし、今日その約束が4年の歳月を越えてここに実現しました。
 そう、二人は昨夜の夕食会で私に語ってくれました」

司会者が淡々と進行していく。
緊張感は盛り上がっていく。


「では、お聞きします。
 藤崎詩織さん、この決勝戦で勝つのはどちらですか?」

間宮は詩織をアップで捉えた。
詩織はチラッと公を見て、そして答えた。
「どちらが勝っても、最高の勝負をします。私のクイズの集大成として……」
「それは?」
司会者が聞き返した。
「この決勝を最後にクイズの第一線からは引退します」
(そして……公くんと……)
詩織の視線の向こうで公が頷いていた。
詩織はチラリと自分の手の指に輝くエンゲージリングに目を落とした。


「朝日奈夕子さん、勝つのはどっちですか?」
間宮は夕子をアップで捉えた。
「勝っても、負けても……目一杯やるだけ。
 シオリンとは最初で……最後の勝負だから」
夕子はチラッと詩織を横目で見た。
(この勝負が終わったら……大学を卒業したら……シオリンは公くんと……だもんね)
「そして、できれば4年分の利子を付けて……4年前の借りを返したいです」
夕子は毅然として言った。
4年の歳月が夕子を一回り大きく成長させていた。


「アメリカ横断ウルトラクイズ、ニューヨーク決勝。
 クイズ王に輝くのはどちらか……
 では始めます。
 帽子を被り、ボタンに手をかけて下さい」

司会者が二人を促した。

詩織と夕子は目の前のウルトラハット……早押し機兼用の帽子……を被った。
目の前のボタンに手をかける。


「準備はよろしいでしょうか? では問題……」

(行くよ、シオリン!)
(ひなちゃん、4年前の約束だよ……頑張ろうね……)


「リカちゃん人形のリカちゃん、お父さんの名前はピエール、ではお母さんの名前は?」

ピンポーン!!


二人の指が同時にボタンを押した。
詩織と夕子の最初で最後の勝負が、今、始まった……

End

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトルカーテンコール
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
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感想投稿最終日時2019年04月12日 21時50分29秒

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