「…さん。わたしもポッケステ買ってきました」
美樹ちゃんが、学校から帰ってくるなり、僕の部屋に来てそう言った。
「え? もう買ってきたの? えらい早いな・・・」
「だって、どうしてもやりたくて」
僕がポッケステで遊んでいるのを見た美樹ちゃんが、林檎ちゃんもやってるし、面白そうだからどうしてもやりたいと言ってから、まだ丸一日経っていない。
「そっか・・・それじゃ早速やってみる?」
「はい!」
美樹ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
「美樹ちゃんのポッケステ、クリスタルか。いいなあ・・・これ売ってないんだよなあ」
「そうなんですか? あそこの角の店、ちょっと置いてありましたよ。それで、なんか透明で綺麗だなあって思ったから、買っちゃいましたけど」
僕は、美樹ちゃんの買ってきたポッケステをまじまじと見た。
「後ろの穴開いてるところとか、金属っぽくていいですよね。あと、電池にマークがあるのもお洒落です」
「そうだよなあ。カッコイイなあ。バイトの帰りにでも寄って、あったら僕もクリスタル買おう」
「そんなに何個も要るんですか?」
「いや・・・そういう訳じゃないけど」
「でも、これって沢山あっても・・・」
僕は美樹ちゃんに人差し指を振って答えた。
「なんか良くない? なんかこうギュっと詰まったのが一杯あると、いかにも持ってるって感じするし」
「そういう物ですか?」
不思議そうな表情をされたが、無理もない。男ならではの思考って奴かもしれないからだ。もっとも、安くは無い物だ。何個も買おうなんていう思想は、よくわからないだろう。僕の場合は、紅玉館でのバイトのお陰もあって、たまたまそういう余裕があるって事だけだ。
「ま、いいや。それよりさっさと入れちゃおうよ。んで、いきなり名刺交換やろ」
「名刺交換って言っても、私…さんの事知ってますけど」
「そういう事じゃなくてさ・・・・ま、いいから・・・」
すでに起動済みの「いつでも一緒」の画面を見ながら、PSのメモリスロットに美樹ちゃんのポッケステを入れた。
青いLEDが点滅して、アクセスしている事を示す。
僕は美樹ちゃんにパッドを渡した。
「じゃあ、はい」
「これ・・・どうすればいいんですか?」
「まず、新しいポケペを選んで。そうそう・・・それから、どのキャラを入れるか選ぶんだ」
キャラクターを選ぶ画面になると、最初に出て来たのは、ネコの田中トロだった。次に出てきたのは犬のピエールだ。これが僕の選んだキャラだ。
「僕のキャラはこれだよ」
「そうなんですか? じゃ、私も同じのにしようかな?」
「別に同じのじゃなくてもいいんじゃない? それでも良ければいいんだけど」
「そうですね。じゃ、他のキャラも・・・」
そう言ってから、次々にキャラを変えていた手が止まった。
トロの所だった。
「やっぱり私、これにします」
「トロか」
「このウネウネしてる所とか、可愛い」
それについては何も言わなかった。ネコ的には可愛いとは思うが、動きとしてはどうかとは思う。ま、それはセンスによる所だが。どっちにしろ、美樹ちゃんらしいとは思った。
「じゃあ、次に個人登録ね」
美樹ちゃんは、次々に、誕生日や血液型や電話番号を入力していった。僕の知っているデータばかりだ。
入力が全部終わると、ゲーム画面が始まった。
「あとは、右を押すとメニューが出てくるから、言葉を覚えさせるなり、話し掛けるなり、自由にしていいよ」
「じゃ、僕バイト行ってくるから。ずっとやってていいよ。別に難しい事ないし、わかんなかったら、説明書そこにあるからね」
「はい」
「んじゃね。戸締りちゃんとしてなきゃ駄目だよ」
僕は、自分の部屋に美樹ちゃんを残して、バイトへと急いだ。
ただいまと帰ってきても、美樹ちゃんの返事が無かった。同居とは言っても、お互いの時間を拘束し約束をした訳でもないから、返事が返って来ない事がたまにはある。それが分かっても居ても、妙に寂しい。ひょっとしたら、美樹ちゃんのお帰りなさいが聞きたくて帰ってくるようになったのだろうか・・・
ドアにはちゃんと鍵がかかってて、自前の鍵で開けたから、居ないのかと最初思ったが、靴はちゃんとあった。居るのは確かだ。普段なら、バイトから帰ってくれば、炊事当番である美樹ちゃんが、良い匂いをさせている筈の時間だった。まだ熱中しているのかと思って部屋をそっと開けた。
美樹ちゃんが僕のベットの上で力尽きて倒れていた。一度着替えたのか、普段の部屋着のまま。
パッドを持ったまま、くーくーと気持ちよさそうだった。
付けっぱなしのTV画面の中で、トロも気持ち良さそうに寝ていた。美樹ちゃんとトロ、最初に寝たはどっちだろう。
僕は美樹ちゃんを起こさないように、部屋の電気を点けずに忍び足で部屋に入って、押し入れを静かに開けて、タオルケットを取り出した。
そう言えば、前にもこんな事あったな。立場は逆だったけど・・・
僕は、しばらく美樹ちゃんの寝顔を見ていた。可愛いと思った。頬をつついてみたいとさえ思えてくる。
そんな衝動を抑えて、完全に熟睡している事を確認してから、ゆっくりとタオルケットをかけた。あの時の僕みたいに、薄目を開けて、僕がしている事を見られないようにする為だ。なにしろ、見られたら照れくさい。
起きている気配がないのを確かめて、僕は静かに床に腰かけて、しばらく画面を見つめていた。
一体、どんな言葉を教え込ませていたのだろう。
そんな好奇心に駆られて、美樹ちゃんが持ったままのコントローラーのコネクタを外して、2P側に刺さってたのを1P側に刺しこんだ。
他人の日記を見るような気分になって、一瞬やめようかとも思ったが、まだ始めてからほとんど時間も経ってないし、大丈夫だろうという事で納得して、○ボタンを押すと、寝ていたトロが起きて、僕に話し掛けてきた。
どれくらいやってたのか分からないが、結構目新しい単語が多い。教える人によって随分と違うんだな。
次に、クイズをやってみた。
トロが、美樹ちゃんから教わった言葉を出してくる。
さすがに他人の教えた言葉だ。最後のヒントを聞いてもわからない。
僕はクイズから抜けて、またトロが部屋に居るのをぼーっと見ていた。
もうこれでやめようと思ったが、ふと、ある事がピンと頭に浮かんだ。
僕が自分のに教え込ませた言葉の中に、「みき」という単語がある。当然美樹ちゃんの名前だ。分類に、「かたおもい」と付けた。もう一度入力すると「みきって…の片思いの人だよね?」と聞いてくる。その度に、何やってんだろう僕は・・・と思うくらいの恥ずかしさに耐えながら、そうだよ。と答えている。遊び半分で入れた物だが、本気も半分入っていた。
僕は、今度こそ他人の日記を読む禁忌感を感じながらも、どうしても気になって、パッドを握る手に力が入った。
メニューを出して、言葉を覚えさせるを選ぶ。
入力画面になったところで、ごくりと息を飲んで、カーソルを動かした。
僕の名前なんて入ってる筈が無い。そんな事をする訳がない。でも、もし入っていたとしたら、どんな分類で・・・
一文字づつ打っていき、最後の一文字を決定しようとした瞬間、背後のベットから、ううんという声が聞こえてきた。
うわわわわわわっ!
慌てて振り返ると、美樹ちゃんが眠そうな目をしながら、こっちをぼーっと見ていた。
「ん・・・…さん?」
僕は慌てて、TVの表示切替をビデオからテレビに変えた。PSの電源を消しちゃいかんと思う判断力があっただけ、たいした物だ。
切り替わった画面で、バラエティ番組が賑やかな笑い声
「あれ・・もう帰ってきたんですか・・・・」
とろけそうな口調で言ってから、ゆっくりと上半身を起こす。
「そ、そうなんだ。たった今帰ってきたとこなんだ」」
「お帰りなさい・・・」
と、肩からスルっとタオルケットが落ちて、ようやくそれに気がついたようだった。
「これ・・・」
「寒かったろ? 寝るんなら僕の布団使っていいのに」
パニックになった気持ちを抑えながら、何事もなかったかのように言った。その裏で、パッドのコネクタを外して、美樹ちゃんが握っているパッドのコネクタに繋ぎ変える。
「寝るつもりじゃなかったんですけど・・・それでも、勝手にそんな事出来ません」
「そんなの気にしなくていいのに・・・」
こと身だしなみについては、がさつ不潔なんていう言葉は、美樹ちゃんには当てはめられないし、移り香があっても、むしろそれはそれで歓迎とさえ言っていいかもしれない。
「あの・・・ありがとうございます・・・」
「いいよ。お互い様だし」
「さすが、…さんのお布団ですね。…さんの匂いします」
当たり前の事だったが、僕には色んな意味でドキっとする言葉だった。
「え? あ・・・臭かった?」
「違います。そうじゃなくて・・・これが…さんの匂いなんだなぁ・・って・・」
一瞬和みかけたが、裏画面が気になってしょうがなかった。
美樹ちゃんがいきなり、思い出したように、
「そうだ。ゲームの方どうなっちゃいました? ゲーム消しちゃったんですか?」
そう言われて、僕はギクっとなった。画面の入力切り替えをしたとはいえ、ゲーム画面は、まだ僕の名前を入力途中で止まっている。
やばい。やばすぎる。
「今画面切り替えしてるだけだから大丈夫だよ。そ、それよか、まだご飯食べてないよね?」
「あ、そうでした! 今何時ですか!?」
「七時半」
「ああっ! もうそんな時間なんですか?! 大変!ご飯の準備全然してませんでした」
慌てて美樹ちゃんがベットから降りた。
「そんな慌てなくても」
「でも、…さんご飯まだですよね?」
「まあ、そうだけど」
「すぐ支度しますねっ!」
寝ぼけているのに、電気を点けていない部屋の中を慌てて駆け出したのがいけなかったのだろう。
躓いて転び、「きゃっ!」と大きな声と共に、派手な音を立てた。階下が住宅だったら、何事だと思われるに違いない。
「わっ! 大丈夫?」
「いったぁい・・・」
のろのろと立ちあがった美樹ちゃんに近づいて、手を貸した。
「どこか打った?」
「いろんなとこ・・・」
「慌てなくてもいいのに」
「そ、そうですね・・」
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫です。なんとか・・・あいたた・・」
膝とか肘とか胸とか、かなり打ちつけたらしい。あちこちに手をやってさすっている。幸いにも、顔や頭は打ってないようだった。
「落ち着いて。別にご飯は逃げないから」
「でも、お腹減ってるんじゃないですか?」
「だからって、餓死寸前な訳じゃないし」
「それは、そうですけど・・・・」
「まあまあ、落ち着いて。ほら、座って座って」
美樹ちゃんをベットの上に座らせてから、明かりを点けた。
部屋を明るく照らすには、やはりTV画面程度の明かりじゃ駄目だな。
僕より寝ていた美樹ちゃんの方が、この光が目に痛いだろう。
「あんな派手な転び方、久しぶりに見たよ」
「忘れてくださいっ!」
おかしそうに言った僕に、顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。
「ポケペ的には、「転ぶ」って言葉を覚えたって感じかな」
「もう、意地悪意地悪っ! …さんの名前なんか消しちゃいますよ」
「は?」
「あっ!」
美樹ちゃんは口を隠したが、もう遅かった。
「名前って・・・・」
「な、ななななんでもないんです。なんでもないんですってば」
何かを聞く必要は無かった。なんの事だかだいたいわかったからだ。まさか本当に僕の名前を入れてあったとは思わなかったが・・・
問題は、どんな分類かっていう事だ。
もしかしたら・・・・・
あの時、早く見ておけば良かったという気持ちと、見なくて良かったという気持ちが、まとめてやってきた。
「え、えっと。それじゃ、私もう大丈夫だから、ご飯作りますね」
立ちあがってから、まるで逃げ出すように僕の部屋から出ていった。
ほっと一息ついてから、TVの入力を切り替えて、ゲーム画面に戻すと、入力画面の後ろで、トロはまた寝ていた。まったくもって、美樹ちゃんに相応しいポケピだ。
なんの偶然か、入力画面に入れてあった名前は、最初の一文字を残して消えていた。
さっきのどたばたで、美樹ちゃんがパッドに触ったりして、一文字消去の所にカーソルが行ったのか。
ほっと胸を撫で下ろして、僕は最初の一文字を消してから、言葉を教えるをキャンセルした。トロは言葉を教えてくれなくて残念そうにしていたが、これで良かったかもしれない・・・・なんてカッコつける程、カッコ良くないか。
メニューでゲーム終了を選んで、僕は美樹ちゃんが居るキッチンへと向かった。
どこでも一緒をやってたら、不意に思いついて、勢いにまかせて書いてしま
ったので、基本的に、どこでも一緒を知らないと何がなんだかわからない物に
なってしまいました。
あと、勢いにまかせた物ゆえの、推敲のあまりの足りなさに、いつも以上のだ
めな文章になってしまったのも悲しいです。
常に安定して期待にそえられるような文章を書きたいと思っているんですが、
これがまた難しくて。
こんな泣き言を書いているひまがあったら推敲しろと言われそうですね(^^;
この話は、後にアップされるであろう話の後日の話なんで、そういう下りがちょっ
とだけあります。といっても、たいした事じゃないですけど(泣
ゲームなど、いろいろ名称が違ったりしてますが、そこはそれ、まったく同じ
にするとちょっとアレかなあ・・と思いまして(^^;
余談ですが、うちでは、どこでも一緒のとなりにずっと一緒が置かれてます(笑
〜一緒シリーズでそろえたいので、どっかのソフトハウスがなんか
「〜一緒」っていうタイトルで出してくれないものでしょうかね(爆
| 総合評価 | 投稿数: 160 pts. / 平均: 4.7(良い方だと思う。) |
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