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46:中央公園 〜芝生の上〜

「池に落ちそうになった事とかあったよね」
「あ、それ思い出した。俺だ」
「そう、よく覚えてたね」

ニッコリと微笑んだ。俺が覚えていた事が、嬉しいかったのだろうか?
まさか‥‥な。


「あの時はもう駄目かと思ったよ。
 知らないおじさんに助けられてなかったら‥‥‥
 あれ? でも詩織はどうしてたっけ?」

そう言うと、思い出したようにハっとして、俺から視線だけを逸らした。

「わ、わたしは‥‥見てただけ‥‥‥だと思う」
「助けてくれても良かったのに」

もちろん冗談だ。
昔の事だし、俺もそんなに詳しく覚えている訳じゃない。

「もういいじゃない。昔の事なんだし‥‥」

どこか、慌てた風に話を打ち切った。

「まあね、いまさら言ってもしょうがないし。でも、懐かしいよね」

春の萌え立つ芝の匂いを嗅いでいると、気持ちだけが昔に帰ったような気がする。
まだお互いが小さかった頃。遊ぶ事に一生懸命だった頃。
その時の事が、まるで夢のようだ。
今は、あの時には無かった感情を詩織に対して持っている。それだけが、あの頃とは決定的に違う。


「他にもいろいろあったよね‥‥‥‥‥」

ふと、寂しそうな詩織の声が聞こえた。

「どうしたの?」

声だけじゃない。表情もどこか哀しげな感じがする。

「‥‥‥‥ごめんなさい。
 あの時‥‥ホントはなんとかしようって思ったの。
 でも‥‥恐くて足が動かなかったの‥‥
 それを思い出したら‥‥思い出したら恐くなってきちゃって‥‥‥」
「‥‥‥」


俺は、何かを言いかけてやめた。
何を言うつもりだったのだろう。自分でもそれがよくわからない。
ただ、芝生を見つめながら、震えるような声で言う詩織を見守るしか出来なかった。

「もし‥‥あの時…が助けられてなかったら‥‥わたし‥わたし‥‥‥」

春の暖かい日差しの心地よさも、今の詩織には届いてないんじゃないかと思う。
それならば‥‥‥

「いいって。言っただろ? 昔の話だって。
 今こうやって居るんだからなんにも問題ないじゃないか。
 それじゃ駄目?」
「駄目だなんて‥‥」

芝生を見つめていた瞳が、俺の方に向けられた。
真剣な表情と一緒に。

「だったらいいじゃないか」

そうだ‥‥‥もう昔の話だ。
そんな事で気に病んでくれるだけで、十分すぎるくらい嬉しい。

それよりも、聞いてみたかった。もし俺が助けられていなかったら‥‥‥
その後になんて言いたかったのか。

「でも‥‥‥」
「だからもういいって言ったろ。俺なんかの事で気に病んでくれなくてもいいのに」
「‥‥‥そんな。わたし‥‥」

詩織が何かを言いかけて、口をつぐんだ。
今の俺には、その後に続く言葉を想像する事は出来なかった。
そんな筈は無い。と想像している言葉をどこかで否定している自信の無い自分の仕業だろうか。


俺は、ごろんと芝生に寝転がった。

「うーん、気持ちいいなぁ」

こんな雰囲気の会話を吹き飛ばすように、寝たまま両手をあげて、背中を延ばした。
寝転がったせいか、春の息吹が濃く感じられる。

「詩織も寝転がれば?」
「えっ‥‥」
「寝転がって空見てみなよ。すごい気持ちいいから」
「でも‥‥‥」

戸惑ったような声が聞こえたが、俺は空を見上げたまんま、あとは詩織にまかせた。
このまま話していても雰囲気が元に戻りそうもないからだ。

「あの時も‥‥こんないい天気だったよなぁ‥‥‥」

独り言なのか、詩織に向けて言ったのか、正直自分でも良くわからない。

それにしても、この気持ちよさ。
俺達がどんなに変わっても、これだけは変わらないんだろうな。それが羨ましい。
柔らかい風が吹いた時、俺が寝転がった時と同じ音がした。
はっとしてその方を見ると、視線と同じ高さに詩織の視線があった。
寝転がった事が少し恥ずかしいのだろうか、頬が紅い。
笑うと、詩織も照れくさそうに笑った。
その表情と、芝生の上に広がった綺麗な髪に、俺はドキリとさせられて、詩織から視線を逸らしてまた空を見上げた。

「ありがとう」

小さい声が聞こえたような気がしたが、俺はそのまま空を見ていた。
詩織の方を見たら、どうなるかわかった物じゃなかったから‥‥‥

Writer: じんざ 氏

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総合評価 投稿数: 280 pts. / 平均: 4.7(良い方だと思う。)
コメント
  • イベント補完編ですね。う〜ん、本当に気持ち良さそうな感じが出てますね。
  • 新宿中央公園でホモと遊べば?
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