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41:テレフォンナンバー

短縮ダイヤルを使わずに、自分でひとつずつボタンを押した。

○×△−×○△○

些細な用事を、頭のなかで何度も何度も復唱しながら、受話器を耳に当てた。
用もなくかける事はほとんど無かったが、無理に用事らしい用事を作る事でしか電話をかけられない自分が、少しだけ恨めしい。
チラリとカーテンを開けて詩織の部屋を見ると、カーテンを通した柔らかい明かりだけが見える。

今、あのカーテンの向こうで詩織は何をしているのだろう。
何を考えているのだろう。

そう思っていると、受話器からコール音が聞こえてきた。

一回‥‥二回‥‥‥三回。

コール音がする度に、鼓動が胸からはみ出るのではないかと思うくらい高鳴る。
それでも、すぐに落ち着くのを、俺は知っている。落ち着かせてくれる人の所へかけているのだから。
一つ深呼吸をしようとした時、不意に電話を取る音がしてすぐに声が聞こえてきた。
「はい。藤崎ですが」
「あ‥‥‥、…と申しますが詩織さんは」
と、そこまで言った時、
「…? わたしよ。わたし」
おかしそうな声が俺の言葉を中断させた。
鼓動は最高潮に達している。
「あ、ああ、詩織か」
「こんばんわ」
俺がホッとする暇もなく、優しい声、どこか楽しそうな響きを感じるような声が受話器から聞こえてきた。
さっきまで暴れていた心臓が、嘘のように落ち着きを取り戻しているのが判る。
訳もない妙な不安が、水の様に流れて消えていくのも分かる。
どうしようもなく胸が暖かくなる感覚が心地いい。
「あ‥‥こんばんわ」
焦って、良く声が出なかった。
それを知られたのだろうか、コロコロとした笑い声が聞こえてた。
自分にとっては、一番聞きたかった声であり、聞きたかった笑い声だ。
「ところで、どうしたの?」
「え? あ‥‥‥えと、部活の事なんだけどさ」
「あ、うん‥‥なに?」
「それよか、今大丈夫? 忙しくなかった?」
「ううん‥‥全然大丈夫よ」
「そっか」
ここまで来て、一瞬何の用で電話したのか忘れそうになった。
「えと、部活の話だっけ」
「うん」
ただその言葉だけが返ってくる。
一言一言に反応してくれる。
それが心地良かった。
それが嬉しかった。
「文化祭の準備なんだけどさ、明日材料の買い出しに一緒に行かない?」
「え、材料の買い出し?」
「今検討してたんだけど、材料がどうしても足りなくてさ。
 それで明日休みだから買いに行こうと思って」
いきなりとんでも無い申し出だな。と自分でも思う。
本来なら買い出しは一人で出来る量だし、わざわざ詩織を誘うほどの物でもなかったが、なぜか誘いたかった。
理由は‥‥‥言うまでもない。
「いきなりでごめん。駄目だったらいいよ」
「明日ね? 大丈夫よ」
「え? ほんとに?」
「うん‥‥」
詩織の声のひとつひとつから、どんな事を考えているのか、どんな表情をしているのかそれを想像していると、収まったはずの鼓動がまた騒がしくなってきた。
「それじゃ、明日詩織のうちに行くから。何時頃がいい?」
「うんとね‥‥‥それじゃ、早いうちに行きましょう。
 用事済んだら‥‥どこかでご飯でも食べましょうよ」
言葉の途中の間の意味を少し考えてしまった。
自分でも気にしすぎ。そう思う。
「え、え‥‥うん。いいよ」
予想もしかなった展開だ。
「ほんと? 良かった‥‥‥」
「え?」
「えっ、あ‥‥ううん、別に」
どこか微笑んでいるような声。そんな声にどうしていいかわからないほど嬉しい気持ちになる。
「それじゃ、明日十時頃でいい?」
「わかったわ。明日十時ね」
その後、頭の中で一瞬切ろうかどうか迷った。
「ねえ‥‥‥ところで、今までなにしてたの?」
「え、俺? TV見てたけど」
「ほんと? 何の番組見てたの?」


まだ電話は長く続きそうな気がした。

Writer: じんざ 氏

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総合評価 投稿数: 282 pts. / 平均: 4.7(良い方だと思う。)
コメント
  • さりげなくいい感じ
  • なんか暖かい、ホッとする作品ですネ。読んでて思わずにんまり笑ってました。次にも期待!!
  • がんばってください。
  • 何気ない日常の風景・・・と言う感じが出ていますね。良い感じです。(^^♪
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