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40:二人三脚 〜体育祭〜

緊張と不安と期待の中で、俺は呼吸を落ち着かせた。


HRの時に、体育祭の参加競技の事について、色々と決めていた時の事が頭によみがえってくる。
「二人三脚に出場する選手は、昼までに相手選手の名前と一緒に届け出てください」
そう言った学級委員長の言葉だ。

参加するのは、ペアで五組だけであった。
無作為に選出されたメンバーの中に、俺の名前と詩織の名前が上がっていた。
この手の事には、反論は付きまといがちだが、選ばれた奴らからは、なぜか異を唱える奴は一人も出なかった。

なんとなく理由は察しがつく。
詩織が居るからだろう。

HRが終わってから、それぞれの競技に参加する事に、「ああ、俺は1500だ」とイヤそうな声をあげる奴もいれば「ただの100メートル走だから、楽だな」と気楽に声を上げる奴いる。悲喜交々だ。
しかし、今俺はそんな事に惑わされている訳にはいかなかった。
昼までに相手を決めなくてはならない。
ちらりと詩織の席を見ると、すでに三人ほどの男が回りに居た。言うまでもなく選ばれた奴らだ。
正直、俺が今割り込んでも、どうしようも無い気がした。
本当なら、押し退けてでも「走ってくれ」と言いたい所だが、それを受けてくれるかどうかの保証もない。そうなったら、ただ惨めなだけだ。
それでも、高校最後の体育祭。なんとしても‥‥という気持ちだけはしっかり残っている。
しばらくの間目を閉じてから、意を決して立ち上がった。
と、詩織の席を見ると、いつのまにか詩織は居なくなっていた。近くに居た三人のやつらも、ちりぢりになって、席に戻っている。
なんてこった、もしかしてもう決まってしまったのか。
あわてて詩織を探すと、いつのまにかドアの所に居た。
すぐに追いかけようとして、少し考えてから反対側のドアから俺は外に出た。
「あ、詩織。ちょっと」
「あ‥‥どうしたの?」
俺が呼び止めると、詩織が歩み寄ってきた。
「ちょっと話があるんだけど」
「なに?」
ニコリと笑って、小首を傾げている。
「二人三脚の事なんだけど‥‥‥もう相手決まっちゃったとか?」
聞いても無駄のような気持ちさえあった。あの状況からして、もう決まったと思うのが普通だろう。半ばヤケになっていた。
「え‥‥」
「あ、いやね、もし良かったら‥‥って思ったんだけど、決まっちゃったならいいや」
自己完結だ。馬鹿馬鹿しい。
「決まってるけど‥‥‥どうしたの?」
そう聞いた途端、頭から一気に血液が無くなったような気がした。
足に少し力が入らなくなる。
詩織は笑顔のまんまだが、その笑顔が、一層俺を辛くした。
この胸の内の嵐の事なんか、まるで気づいてない風だ。

「あ、そ、そっか‥‥‥いや、いいんだ。別に」
心とは裏腹に、苦笑を浮かべて、背中を見せようとしたとき、
「一緒に練習しようね」
そう言ってきた。

「え‥‥?」
頭の中は、クエスチョンマークの大行列だ。

「だって、もう決まっちゃったんじゃないの?」
「‥‥‥?」

俺の言葉に、詩織が不思議そうな顔をした。

「え? ‥‥俺が詩織と?」
「‥‥‥あ」
俺が不思議そうな顔をしていると、詩織の表情が少しだけ真剣な物に変わった。

「忘れちゃったの?
 一年の時、二人三脚やる事があったら、一緒にやろうよって言ってたのに‥‥‥」
「え?」

クエスチョンマークがタップダンスを踊り始めた。足音がうるさい。

「‥‥ホントに忘れちゃったの?」
「‥‥‥‥って事は、もしかして俺と?」
俺は、正直覚えていなかった。
どうやら、俺は一年の時に詩織と約束したらしい。したかもしれないが、俺はほとんど覚えがない。
それに、自分が忘れているような事を詩織が覚えていてくれるなんて、夢にも思っていなかった。
「うん」
「‥‥‥‥‥」
正直、言葉が無かった。詩織の無表情が、怒っているのか悲しそうなのか、区別がつかなかったせいもある。
「ごめん。忘れてた‥‥‥やっぱ、俺じゃ駄目だな。ほんとごめん‥‥」
どちらにしろ、忘れていた事だけは確かだ。呆れられるのも無理はない。
自分から引いた。
「待って。どうしたの?」
背中を見せた俺に、詩織が呼びかけてきた。
「約束忘れたから‥‥怒ってるだろ?」
「ううん‥‥‥そんな事ない」
驚いて振り向いた時、待っていたのは笑顔だった。
「別に怒ってなんか‥‥だから、一緒に走りましょう」
「ホントにいいの?」
俺の言葉に、ただひとつ頷いてくれただけだったが、俺には十分過ぎた。


「じゃ、委員長。これでよろしく頼むぜ」
俺の名前の横に「藤崎詩織」と書いた紙を渡した。

Writer: じんざ 氏

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総合評価 投稿数: 280 pts. / 平均: 4.7(良い方だと思う。)
コメント
  • これは・・・続編もあるんでしょう? 期待してもいいですか?
  • rrr
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