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04:眠れぬときは、羊を数えて

目をつぶった。
目をつぶると、ある風景が浮かんでくる。
学校のあの樹の下だ。
そこには詩織が居た。
その場所で、初めて俺達はお互いの気持ちを確かめあった。
「世界中の誰よりも‥‥‥」
そう思い出す度に目を開けてしまう。
それこそが、なかなか寝付けない理由でもあった。
けだるいが、どこか心地よい。思い出すと胸がキュンと痛む。
鼓動が早くなるのは、自分でもわかったが、抑える方法がわからない。
ふぅ‥‥と、一つため息をついてベットを降りた。
時計をチラリと見ると、午前0時を指していた。
このままでは寝付けないけど、起きていても何も手に付きそうもない。
そんなまんじりとした状況で、俺は窓を開けた。
春とはいえまだ若干冷たい夜風がスウと流れ込んできたが、今の俺にはちょうど良い感じだった。
窓に手をかけると、真っ先に詩織の部屋の窓が目にうつった。
カーテンが閉じられ、電気も消えている。
そういえば、眠れない時は羊を数えてたっけ。詩織は‥‥‥

「眠れない時はね、詩織、羊を数えるの」
「どうして?」
「ママが言ってたの。眠れない時は羊を数えなさいって。
 可愛くてフワフワした羊さんが、夢から迎えに来るんだって」
「ほんとに?」
「だって、ママがそう言ったもん。詩織も眠れない時はいっつも数えてるんだから‥‥‥」

俺の目は夜空を向いていたが、見ていたのは、小さい頃の事だった。
羊か‥‥
今夜、詩織は何匹数えたのかな‥‥
そう思うと、ちょっと楽しくなった。
意識を夜空に向けると、そこには満天の星空が広がっていた。
昨日までは高校生だったのにな‥‥‥
星空を見ていたら、思わず感傷的になってしまった。
何億年も前の光か‥‥‥それにくらべりゃ、高校時代なんてあっという間だったよな。
ボーっと空を眺めていると、カラカラカラと小さい音が聞こえてきた。
ん?
ふと視線を下に落とすと、詩織の部屋の開いた窓に人影があった。
「‥‥‥‥詩織?」
「星‥‥きれいね」
そう詩織は言った。

俺は詩織の家の前で待っていた。
しばらくすると、玄関のドアが静かに開いて、詩織が出てきた。
そっとドアを閉めている。
「ごめんね。遅くなっちゃって」
詩織が小さな声で言った。
月明かりに映える詩織の顔を見て、改めてドキっとしてしまった。
「いや、俺の方こそ、こんな時間に呼びだしちゃって‥‥」
「お母さん達に気づかれないように出てくるのに苦労しちゃって」
詩織は楽しそうに笑った。
その笑顔が悪戯っぽく見えたのは、月の魔法のせいだろうか。
「じゃ‥‥行こうか」
「うん」
俺達は、月の光が導くまま、近所の公園に向かった。
眠れない夜の、ささやかなデートにはもってこいの月夜だ。

公園には小さい照明があるだけだったが、月の明かりが小さな助力をしているせいか、お互いの表情が見えるほどだった。
「ふふふふ‥‥」
ブランコに座って、小さく、本当に小さくこいでいた詩織がおかしそうに笑った。
「どうしたの?」
「あ‥‥えっとね。お母さん達に内緒で出かけるのをまたやるとは思わなかったな‥‥って」
「詩織は小さい時からマジメだったもんな」
からかうように笑うと、
「どうせ私はマジメっ子ですよ」と、そっぽを向かれてしまった。
「冗談だって」
「‥‥‥」
「おこっちゃったのか?‥‥‥詩織?」
「‥‥‥内緒ででかけていた時って、いつも一緒だったよね」
全然気にしてないよ。という風に、そう言いながら嬉しそうな表情で振り返った。
「あ、ああ‥‥そうだったっけ」
「一度お母さん達に怒られた事あったじゃない。
 あの時、さそったのは僕だから詩織ちゃんを怒らないで!って言ってくれたの。覚えてる?」
「ああ‥‥あれか。覚えてるよ。あとで親父と母さんにこってり絞られたよ」
「そうだったの‥‥
 ごめんね。でも、あの時ほんとに嬉しかったな」
嬉しそうに目を細めて、したを向いている。
「もういいじゃないか。昔の話だぜ」
昔の事とはいえ、絞られた思い出はかなり強烈だった。
「詩織ちゃんにもしもの事があったらどうするんだ!」ってオヤジに怒られたっけかな‥‥
でも、その時俺は‥‥‥‥

「うふふっ」
「な、なんだよぉ」
「きらめき公園の時と逆だなって」
「詩織は、ほんとにいろいろ覚えているんだなぁ」
「忘れないわ。これからだってずっと‥‥‥」
「詩織‥‥‥」
語尾が小さくなっていくのを聞いて、俺は胸が熱くなるのを感じた。

「詩織ちゃんは僕が守るんだいっ!」
そう親父に、泣きながら言い返したっけな‥‥あの時。

ふと、どことなく身体をちぢこませているのに気づいた。
「寒いの?」
「あ、ううん‥‥‥大丈夫」
大丈夫な訳ないな。甘く見て薄着してきた俺も少し寒い。
それでも、とりあえず俺は上に羽織ってきたジャンパーを脱いで詩織の肩にかけた。
「あ、え!? 私大丈夫だから‥‥私より‥‥」
え?という感じで、驚いているらしい。
「そうだな。やっぱり結構寒いや」
「大丈夫だから‥‥ほんとに」
「じゃ、こうしよう。代わりに貸して欲しい物あるんだけど」
掛けたジャンパーを取ろうとしているのを、言葉で制止させた。
「なに?」
「詩織の肩」
クサイとは思わなかった。口が勝手に言った。
「‥‥‥‥‥‥‥‥うん」
しばらくの沈黙の後、詩織が小さく頷いて、ブランコから立ち上がった。
俺は、詩織の肩にそっと手を置いた。
自然に動けた事は、自分でも不思議だと思う。
つい昨日までは、俺の方からはただの片想いだとさえ思っていた人が横にいる事が、ふと信じられなくなり指と腕に力を少しだけ入れた。
微かに、触れている部分から詩織の鼓動が伝わってくるような気がした。
「わたし‥‥あったかい?」
ちょっと不安げな声で詩織が言った。
「うん、すごく暖かいよ‥‥」
肩を抱いた時点で、もう空気の寒さはとっくの昔に感じていない。
沸き上がる熱い気持ちで、上気しそうなほどだ。
「ずっと‥‥ずっとこうしてたい‥‥」
「‥‥俺もだよ」
空を見上げてみる。
流れ星でもあれば‥‥‥それに願いをかければかなうだろうか。

詩織の家の前についた時、詩織が掛けていたジャンパーを俺に返してくれた。
「ありがとう‥‥」
俺は黙って受け取った。
「じゃ、お休み‥‥」
俺は、詩織が家に入るまで見届けようとしたが、
詩織が門をくぐる直前で、ピタリと止まった。
「夢‥‥じゃないよね?」
振り返った詩織が、不安そうに聞いてきた。
「昨日の事も、今日の事も、これからの事も‥‥夢じゃないよね?」
「‥‥ああ、夢じゃないよ」
「‥‥うん」
そう答えが来るのを知っていたかのように、微笑みながら頷いた。
「あ、詩織‥‥‥」
俺は不意に呼び止めた。
「何?」
「今日、何匹まで羊を数えたの?」
「‥‥‥羊はね。今日は私より先にねむっちゃってて、出てこなかったの」
「え‥‥?」
「逆に、誰かさんが出てきて、眠れなかったわ」
そう言うと、いそいそと門をくぐって、玄関の前まで小走りに行ってしまった。
ドアを開ける時、
「おやすみなさい」
と、小さく言って玄関の中に消えて行った。
俺は、まだ詩織の温もりが残っているジャンパーを羽織ってもう一度空を見上げた。
小さい時に見た夜空と変わってはいないんだろうな。
きっと、これから先も‥‥‥
ジャンパーの温もりが消えないうちに、俺は急いでうちの中へ入った。

後書き

告白された日の夜の出来事です。
ずっと長い間の想いがかなった夜。
二人はどんな事を思って過ごしているのか、ちょっと考えて書いてみました。
告白した事によって、二人の間の何が変わったかわかりませんが確実に心だけは近づいたようです。

眠れない夜。好きな人の顔が浮かぶ夜。星がきれいに見える夜。
そんな時にちょっと読んでみてください。

Writer: じんざ 氏

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総合評価 投稿数: 280 pts. / 平均: 4.7(良い方だと思う。)
コメント
  • 公君、男ですね〜(漢ではありません)
  • 読んでいる方が恥ずかしくなって来ますよ(^^♪ これぞときメモSSの王道って感じですね!さあ、次行きましょう!
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